火山についてのQ&A集

Question #5911
Q
 地学については門外漢なのですが気になることがあり
このたび質問いたしました。


 最近読んだ本の中に、ハワイ島の火山では『ペレーの毛』と呼ばれる
非常に細いガラス質の繊維が作られることを知りました。


 かつて富士山が噴火したときもペレーの毛のようなものが
発生したのではないかと思っていますが、如何でしょうか。

その理由についてですが、私の住んでいる山梨県の
江戸時代頃の資料(日記帳)に『毛降る』という記載が出ています。

 初めは何のことだか分かりませんでしたが、もしかしたらペレーの毛
のような火山(富士山)の噴火物ではないかと思うようになりました。


 確認する術がありましたら教えて頂けないでしょうか。

(09/16/05)

櫛形山:社会人:31

A
 「ペレーの毛」は,ハワイ島の火山のような,特に粘性の小さいマグマを噴出する火山に特有のものです.そのような火山は日本にほとんどないため,日本の火山で「ペレーの毛」が実際に見つかった例はごく限られています.富士山の噴火堆積物の中から,その実物が見つかった例はまだ知られていません.
 古記録の中では,1707年宝永噴火の最中に千葉県で毛が降ったことが書かれた日記『伊能景利日記』が存在します.ただし,降った毛として添えられていた試料を実際に調べたところ,それは「ペレーの毛」ではなく植物の茎のようなものであったため,噴火とは無関係であった可能性が高いです.また実際に,同じ日記の中に,噴火と関係のない時期にも「毛が降った」ことが書かれています.
 この例に限らず,日本の中世から近世にかけての史料には,火山から遠く離れた地方であっても,「毛が降った」「砂が降った」などの記録がかなり見つかります.このうちの「砂」の多くは黄砂現象を記述したもののようです.「毛」についてはまだはっきりしたことはわかりませんが,ある種の蜘蛛は糸を利用して集団で空中を渡るそうで,その際に使われた糸が空から大量に降る例が実際にあると聞きますし,千葉県の例のように細かな植物などを誤認した例もあったことでしょう.
 よって現時点では,よほどの強い証拠がなければ,降毛の記録を無理に火山噴火に結びつける必然性はないと思われます.なお,江戸時代の富士山噴火は,宝永噴火(旧暦で言うと,宝永四年十一月二十三日午前〜十二月九日未明)しか知られていないので,降毛の記録がこの時期に一致するかどうかは一つの判断のポイントだと思います.
(09/21/05)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学)
Question #5901
Q こんにちは、初めまして。私は趣味で地学を勉強している自営業のものです。

溶岩の起源であるマントルを構成している岩石について質問があります。教えていただけるでしょうか?

太平洋の下のマントルは、レールゾライト岩やハルツバーガイト岩で構成されているようですが、日本の様な島弧の下のマントルはどの様な種類のかんらん岩で構成されているのでしょうか?太平洋(海洋底)の下と同じでしょうか?ある文献には、島弧の下はキュムレート岩?、メタキュムラスマントル岩?で構成されているとあります。ダナイト岩などのとけ残り岩で構成されているともあります。これらの岩石は、太平洋の下を作っている岩石から島弧の溶岩が形成された後に残ったマントル岩石と考えてよいのでしょうか?しかし、現在の火山活動で日本の下にダナイトなどの溶け残り岩が増えれば増えるほどマグマの源のレールゾライト岩などがなくなりますからマグマの生産は衰えていき、しまいには日本から火山活動がなくなるような気がします。このあたりが大変混乱いたしましてご質問しました。ご回答よろしくお願いいたします。 (09/05/05)

火山大好き人間:社会人:40

A 島弧の下のマントルも基本的にはレールゾライトからできていると考えて差し支えありません.海嶺下のマントルと同様にマントル対流の影響を受けて物質の入れ替わりがおこるので,初期地球において大陸地殻を形成した残存部分だけで島弧の下のマントルができているわけではありません.もちろん,マントル対流による攪拌が非常に効率的なわけではありませんから,詳しく調べると,名残りを留めた部分など海嶺下のマントルとの差異がある部分もあって若干の化学組成の違いはあると思いますが,大枠としての岩石の分類ではレールゾライトで良いでしょう.

島弧の下のマントルのもう一つの特徴として,沈み込むプレートからの物質の供給を不断に受けていることがあげられます.若いプレートの場合には沈み込んでマントル中に突っ込んだプレートそのものの上面が部分融解してマグマを発生させ,それが島弧直下のマントルと混合することがおこります.また,古くて冷たいプレートの場合には,プレートの中の含水鉱物が分解して生じた流体(水を主成分とするが,さらに様々な元素を溶かしている)が島弧直下のマントルに浸透して,やはりマグマを発生させやすいように島弧直下のマントル組成を変えていきます.

ちょっと変なたとえかもしれませんが,土の栄養が足りなくなって植木の育ちが悪くなったら肥料を足してやると地力が回復してまた植物が良く育つようになるようなもので,マグマを出して枯れてしまった島弧直下のマントルでも,マントル対流や沈み込むプレートからの新たな物質供給を受けて,マグマ生産力を回復しているといったところでしょうか.
(09/10/05)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)


Question #5880
Q 岩石の分化の指標にFeO/MgOとNa2O/CaOが使われているのですがなぜなのですか?
また、化学組成の表によく(K2O+Na2O+CaO)/Al2O3だけが分子比と書かれているのですが、この値の意味するところがわかりません、さらになぜ他のように重量比を使わないのですか? (08/15/05)

むら:高校生/大学生:22

A
 これはかなり専門的な質問ですね.この質問には,高校地学の教科書に必ず出てくる「固溶体」や「結晶分化作用」といったキーワードを使って答えるのですが,高校地学の教科書をいくら熟読しても回答は出てきません.大学の専門課程の岩石学のレベルですね.岩石学の教科書をよく読めばわかるはずですよ.
 例えば,玄武岩マグマから早期に結晶する「かんらん石」という鉱物は,その中に含まれる鉄(Fe)とマグネシウム(Mg)の比がゼロから無限大まで様々に変化する「固溶体」です.地球表層付近の通常の条件でかんらん石がマグマから結晶する時,かんらん石(S:固体)のFe/Mg比とマグマ(L:液体)のFe/Mg比は等しくならず,(Fe/Mg)S/(Fe/Mg)L=0.3の関係があることが,いろいろな組成のマグマについて実験的に確かめられています.つまり,あるマグマから結晶するかんらん石は,必ずそのマグマよりもFe/Mg比が小さくなり,結晶が沈降するなどして物理的に取り除かれたあとに残ったマグマは,最初のマグマよりもFe/Mgが増加することになります.マグマと輝石の間にも同様の関係があるので,マグマからかんらん石や輝石が結晶し,その結晶がマグマから物理的に取り除かれる「結晶分化作用」により,マグマのFe/Mg比はどんどん高くなっていくことになります.ただし,マグマ中の酸素の増加などにより磁鉄鉱(Fe3O4)のようにMgを含まずFeを多量に含む鉱物が結晶するようになると,それ以後のマグマのFe/Mg比の増加は頭打ちになります.
 このようにFe/Mg比はマグマからの苦鉄質鉱物の結晶分化作用の程度を示す重要な数値ですが,岩石の化学分析値は,主要元素については酸化物の形で表すのが通例なので,分析表から簡単に計算できるFeO/MgO重量比を(結晶)分化(作用)の指標としてよく用います.ただし,分析表にはFeOとFe2O3の両方,あるいはFe2O3だけが載っている場合があり,その場合はFeO+0.9xFe2O3の値をFeO*として,FeO*/MgOの値を使います.FeO*/MgO重量比×0.5611がFe/Mg原子比(f),そして1/(f+1)がMg#(=Mg/(Fe+Mg))になります.
 Na2O/CaOを分化の指標として用いることは少ないですが,これも上述と同様に,斜長石固溶体とマグマの化学組成の関係に基づいています.つまり,マグマから結晶する斜長石は,必ずマグマよりもNa/Ca比が小さく,残りのマグマはNa/Ca比が増加していくわけです.また,単斜輝石(普通輝石)のNa/Caはゼロに近いので,マグマから単斜輝石が結晶する場合も,マグマのNa/Caはどんどん増加します.ただし,NaとCaをほとんど含まないかんらん石が結晶しても,マグマのNa/Ca比は変化しませんから,玄武岩マグマの初期の結晶分化作用を示すには,この比は適しません.
 最後に,(K2O+Na2O+CaO)/Al2O3を分子比で表す理由も,長石(斜長石とアルカリ長石)に関係しています.長石は地球の地殻をつくる普通の岩石(大部分は火成岩)中に最も多量に含まれる鉱物であり,長石固溶体はどんな組成のものでもこの比が1なので,通常の岩石はこの比が1に近いものが多いわけです.従って,この比が1よりかなり小さい「パーアルミナス」な火成岩や,この比が1より相当大きい「パーアルカリック」な火成岩は,通常の火成岩とはマグマの起源物質や成因が異なると予想できるわけで,岩石学では重要な数字です.ところが,この比を酸化物の重量比で計算すると,「どんな長石でもこの比が1」にならず,意味のない数字になってしまいます.そして,Na(曹)長石やK(カリ)長石ではNa/AlやK/Alの原子比は確かに1ですが,Ca(灰)長石ではCa/Al原子比が本来0.5なので,「どんな長石でもこの比を1」に揃えるには,CaをNaやKやAlに対して2倍の数にしてやる必要があります.そういうわけで,このように「変な分子比」を用いるわけです.
(08/25/05)

石渡 明(金沢大学・自然科学研究科)
Question #5855
Q 私は地学とディズニーが大好きな中3です。
そこで質問があるのですが、東京ディズニーシーにある人工火山、プロメテウス火山はその建造物として学会でも注目をあびているという噂を耳にしたのですが、実際にはどのような点が注目を浴びる要素なのでしょうか??
建造物としての精巧さ以外の点(例えばその設定のリアリティーさなど)からのご回答をよろしくお願い致します。

(07/17/05)

地学。:中学生:15

A はい.その通り,たいへんな注目を浴びています.どのあたりが注目されるかというと,パーク内のあちこちの崖に見られる火山噴出物のみかけが本物そっくりなんですね,どのくらい似ているかというと,私たち火山専門家が顔を近づけてみて,ようやく偽物とわかるくらいのレベルなのです.「どうせこんなに似せても一般の人たちにはわからないのだから,適当なところでやめておこう」などという妥協がまったくないのです.そのあたりがディズニーのすごさですね.

それから火山噴出物の種類が,大きく分けて4種類くらいあるのですが,それらが地質学の法則にしたがって順序よく重なっているところも本物とまったく同じで,舌を巻いてしまいました.私たち専門家が本物の火山に対しておこなう野外調査法にしたがって調査を進めたら,きちんとプロメテウス火山の断面図を描くことができ,噴火史を組み立てることができてしまいました.

そのあたりの解説や調査結果について,先週発売になったばかりのディズニーファン2005年9月号の記事として載せてもらえましたから,どうぞご覧になってください.そして,家族やお友達にも教えてあげてくださいね.これで夏休みの自由研究はバッチリですよ.
(07/25/05)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学)
Question #5847
Q お久しぶりに御質問させて頂きます。今年の5月に三宅島、桜島とふたつの火山島を訪問する機会に恵まれました。特に三宅島は遊覧飛行を利用してカルデラをこの目で見れた事は一生の想い出となりました。ふたつの火山について御質問よろしくお願いいたします。

@三宅島について。
火山活動の少し長期的な今後の予測についてですが今後どのように展開していくと考えられますでしょうか。深いカルデラはそのまま残り侵食により少しずつ大きさが拡大していく。または再び(地下のマグマの蓄積とともに)カルデラ底が少しずつ隆起していく等。2000年の噴火のあと早川先生のHPでいくつかの短期/長期予測が立てられていましたがもし最近の主流の説があれば御教示ください。

A桜島について
連日爆発しているイメージがありましたがほとんど噴煙も見えず、観光バスのガイドさんからも「ここ5年はめったに灰の降る事もなくとても住みやすい島になっております」といわれました。実際の所活動は衰える方向に向かってると考えてよろしいでしょうか。
よろしくお願い申し上げます。

(07/13/05)

アマンタジン:社会人:30

A 火山を実際にご自分の目で見ると、本などで見たのよりもずっと感動が大きかったのではないでしょうか。

さて三宅島の長期予測ですが、2000年噴火でこれまでのマグマ供給システムが破壊されてしまったと考えられます。このまま何もなくても、カルデラ壁の崩落などで徐々にカルデラは浅くなっていくと思われますが、ことマグマ噴火活動の予測となると、ここ数百年間のような山腹割れ目噴火を続けるのか、噴火様式が変わるのか、活動予測は難しくなりました。地質記録から見ると、前回、約2500年前のカルデラ形成事件後の噴出物は、山頂部からの噴出物がやや多く、スコリアも急冷されたような構造を持っていたり、火山灰でコーティングされたようなものが多く認められます。つまり、カルデラ形成後はカルデラ内で、カルデラ内の天水あるいは地下水とマグマが接触し、やや爆発的な噴火が多くなる可能性があります。今後の三宅島の噴火も、そのような過去の履歴を参考にしながら、地殻変動などを監視していくしかないでしょう。

桜島は、ここ10年ほど何年かを除いて爆発回数も少なく、特に降灰量は1970年代後半から80年代のような活発な状況から比べると激減しています。以前は連続して灰色の噴煙が上がっていたものですが、最近は水蒸気や二酸化硫黄ガスが上がるだけで、それすらもかなり少ないことが多いです。そのため最近の高校生より若い鹿児島県人は、桜島の灰と言ってもいまいち実感が無いようです。このように表面現象としては不活発な状態ですが、噴火活動が活発だった80年代に停滞していた姶良カルデラの垂直地盤変動が再び上昇に転じたほか、桜島山体そのものも膨張しています。マグマ溜まりの膨張速度と爆発回数などには相関関係があるようで、爆発(=マグマ放出)が多いと膨張が停滞する傾向があります。現在のような表面活動が不活発な時期は、おそらく地下でマグマの蓄積が進行しており、次の噴火への準備がゆっくりとではありますが進んでいると見るべきでしょう。
(08/01/05)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地質調査情報センター)

Question #5823
Q はじめまして、卒論で溶岩の岩石学を専攻しているものです。
ここでは分かりやすく色々なことが説明されていて、すごく参考になります。
そこで私も質問したいことがあります。
とってきたサンプルを薄片にして鉱物の組織を観察しているのですが、骸晶(skeletal)とembayment の違いがよく分かりません。文献の写真でみてもオリビンの自形結晶で、ドーナツのように穴が開いているのが前者で、自形の輪郭を残しながらも虫食いのようになっているのが後者と説明が書いてあってどうにも見分けが付きません。
また、仮にドーナツ状に穴が開いているとしたら、穴の内部にはメルトが閉じ込められていると一概に言っていいものなのでしょうか?教えてください。 (06/04/05)

ちゅるりん:高校生/大学生:22

A 骸晶もembaymentも単に結晶の現在の形状を示しているのではなく,形成プロセスの情報も含んだ言葉です.
骸晶は,結晶が急成長する際に原料物質の補給を受けやすい結晶のコーナーやエッジ部分が優先的に成長したために生じた形状です,一方,embaymentは,もともと存在した結晶が何らかの原因で融解する時に結晶面の一部分が選択的に融解して穴が穿たれたことによって生じます.骸晶は急成長の後に安定成長する時期を経るとしだいに自形に近づくように成長しますが,コーナーやエッジからもっとも離れた部分は成長が追いつくのに時間がかかるため,へこんでいる場合があります.

サイコロの8つのコーナーと12本のエッジ部分が優先的に成長した形をイメージしてみてください.もともとの面の部分は成長に取り残されてへこんでいるはずです.これを中心から離れた適当なところで面に平行に切断して薄片をつくれば,ドーナツのように穴のあいた形状を目にすることになります.
このことからもわかるように,ドーナツ状に穴が開いていても穴の内部にはメルトが閉じ込められているとは断定できません.メルトが閉じ込められているか否かの判断は,薄片にする前のハンドピックした鉱物を実体顕微鏡下でよく観察することがもっとも簡単かつ確実です.
(06/07/2005)

安田 敦(東京大学・地震研究所)



Question #5812
Q 現在,火山(特に火砕流・火砕サージ)について勉強しています.メラピ型火砕流についてはいくつかの論文を読んで,雲仙の例で理解してきました.しかし,スフリエール型,噴煙柱崩壊型の発生機構についてがよくわかりません.ガス圧と粘性の関係が主たる成因なのか,温度もかかわってくるのかを教えてください. (05/17/05)

N大M研:高校生/大学生:20

A 小規模火砕流は通常,メラピ型,プレー型,スフリエール型の3種に区分されます.前2者は溶岩ドーム噴出に伴って発生するもので,スフリエール型はいわゆる爆発的噴火(火口から火砕物が放出される)が生じた際形成される噴煙柱が周囲の大気よりも密度が大きく周囲に崩壊して発生するものです.カルデラを形成する大規模火砕流も同様に噴煙柱崩壊で発生しますが,スフリエール型と言われるのは比較的小規模なものについて使うのが適当と思われます.元々はカリブ海小アンチル諸島南部のセントビンセント島(St.Vincent)のスフリエール(硫黄)火山の1902年の活動記録に基づいて名づけられました.近年活発に活動しているやはり小アンチル列島北部のモンツエラート島のスフリエール・ヒルズ火山では1997年末にこのタイプの噴火がおこりました.その典型的な映像はモンツエラート火山観測所のホームページの [History] の項の中,[A Chronology of the current eruption] の22番1997年10月1日の活動をクリックすると連続写真で見ることができます(ビデオも購入可能).その頃の活動の記録を計算機実験で再現した図(次の論文)も掲載されています.A. B. Clarke, B. Voight, A. Neri, G. Macedonio (2002) Transient dynamics of vulcanian explosions and column collapse. Nature, 415, 897-901.スフリエール型については,和文解説としては,宇井忠英編著「火山噴火と災害」東大出版会1997年,P.32-36.が良くまとまっていると思います.噴煙柱の解説は,やや専門的になりますが,下鶴大輔・他編「火山の事典」朝倉書店の第四章「火山の噴火現象」が詳しいです.
(05/20/05)

佐藤博明(神戸大学・理学部・地球惑星科学教室)

Question #5810
Q 先月伊豆大島の火山博物館を見学してきました。日本の火山災害の展示を見てベースサージ災害がよくわからないので説明お願いします。火口から環状に拡がる横殴りの噴煙による災害とまでしかわからないので。 (05/16/05)

TAKO:高校生/大学生:20

A ベースサージ(base surge)は地表での核実験ではじめて認識された現象で、爆発中心から地表を這うように走る爆発煙を指した言葉です。これと同様の現象が火山噴火でも発生することが、明神礁の噴火(1952年)やフィリピン・タール火山の噴火(1965年)で確認されました。

ベースサージを含む火砕サージと呼ばれる火山現象は、一言で説明するのには以外と苦労する現象です。火砕サージは火砕流と似ていますが、火砕流に比べて全体に占める固体粒子の量が少なく、希薄で密度が低い流れ現象です。固体粒子の量が少ないため、火砕サージによる堆積物1枚1枚は薄いことが一般的です。

ベースサージは、浅い海や火口湖などでマグマ水蒸気爆発が発生したときに、火口から垂直に立ち上がる噴煙とは別に、火口から環状に横殴りの噴煙が広がる火砕サージの一種です。サージを発生させる爆発は何回も起きるため、薄層が何層にも積み重なり、風紋状の地形を残すこともあります。規模や性質は、水と反応するマグマの量などで大きく変わってきますが、火砕流より希薄とは言え速度は非常に高速で、破壊力は無視できません。マグマ水蒸気爆発発生時にもっとも危険な噴火現象です。1965年のタール火山の噴火では、ベースサージにより火口湖周辺の住民約150名が死亡しています。日本でも明神礁噴火で海上保安庁の観測船がベースサージの直撃を受け、31名全員が犠牲になっています。伊豆大島や三宅島でも、海岸付近でマグマ水蒸気爆発が起きたときに、ベースサージが発生しており、火口周辺数kmの範囲を破壊しています。
(05/30/05)

川邉禎久(独立行政法人 産業技術総合研究所・地質調査情報センター)
Question #5808
Q 初めての質問です。溶岩トンネルはどんな作りになっているのですか?今私は中学校で富士のことについてをしらべているのでぜひ教えてください。 (05/13/05)

シバシバ:中学生:13

A シバシバ君
回答が遅くなってしまってごめんなさい.まだ富士山の勉強は続いているといいんだけど.
 溶岩トンネルについて調べてるのは,富士山にそれがたくさんあるからなんでしょうね.まず,どうして溶岩トンネルができるのかを説明してみましょう.
 溶岩にはその粘っこい性質の程度によって,流れやすいものと流れにくいものとがあります.そのうち,流れやすいもののほうは,高いところから低いところへ向けて,ゆっくりとだけれど確実に流れて行きます.溶岩は流れながらふくらんでいって,だんだんと厚みのあるかまぼこのような形のものに成長していくのです.このかまぼこ形の溶岩の外側の部分は土地や空気に冷やされるので固まって石になっていますが,中の部分はまだ温度が高くてどろどろにとけたままです.外側の固まった石の中をどろどろの溶岩が流れていくという形になるんですね.こうして流れると,中の溶岩はなかなか冷えないので,火山からうんと遠い所にまで流れていくことができます.噴火口から溶岩が出つづけるかぎりはどんどん遠くまで流れていくことになります.
 でもいつかは,噴火口から溶岩が出るのがやむ時がやってきます.その時に,つまっていたどろどろの溶岩が,さきっぽや横っ腹のところから流れ出ていってしまうということがおこると,今まで溶岩がとおっていた通路はトンネルのようにあながあいて残されることになります.これが溶岩トンネルです.ですから,溶岩トンネルは流れた方向にそって長くのびています.また,中の残った溶岩がだんだん減っていくのにつれて,トンネルの壁のところに棚のようになって,かつての溶岩の上の面が残されていることもあります.それから,溶岩の壁や天井からどろどろの溶岩のしずくがつららのようにたれ下がっているのもみられます.また,トンネルの中を歩いてみると,あしもとには,溶岩が最後に流れたもようが残っていて興味がつきません.富士山にもたくさんある溶岩トンネルに是非もぐってみてくださいね.
(06/16/05)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学科)
Question #5806
Q 火山の噴火について今度高校生たちを対象に話をする機会があります。論文など数多くありますが、噴火のきっかけについてイメージしやすいような説明をしたいと考えています。そのためには私がまずメカニズムを整理したいと思い、質問させていただきました。よろしくお願いいたします。

#1801でのお答えの中に、「・・・例えば地下のマグマ溜まりの中で,流紋岩質のマグマ(低温)の中に玄武岩 質のマグマ(高温)が入ってきて混合すると,・・・」とありましたが、もとから存在したマグマ溜りにまた新たにマグマが供給されるのはどんな原因が考えられますか?例えば、もとからあったものが噴出して入れ物のマグマ溜りの中身が少なくなったから、深部から新しいものが侵入することが可能なのか、もしくは元のマグマの体積などは関係なく、深部から新たなマグマが発生すると随時、という考えなのか、と混乱してきてしまいました。
漠然としていてお答えづらいかもしれませんがよろしくお願いいたします。 (05/06/05)

min:高校生/大学生:19

A 5801番の質問ともやや似ていますね.マグマの溜まりが噴火で空っぽ,あるいは,少なくなったために下からマグマが来やすくなるということはありそうですが,実際にそのような観測がされたことはないようです.逆に,下から注入されたためにマグマ溜まりが膨れて噴火が起きたという例がいくつもあります.ハワイのキラウエアでは傾斜計で山頂部の膨らみ方を見て噴火を予報しています.マグマ溜まりの下方で地震が起き,しばらくして起きた噴火では,噴出物に異なるマグマの混合した証拠が認められています.マグマ溜まりの下方で起こった地震が下からのマグマの注入(移動)を示すという解釈です.1991年に起きたフィリピンのピナツボ火山の噴火や質問番号5801がその例です.しかし,これらの火山で,地震や噴火に先行して山が収縮したことや,山頂部が陥没したこと等は観察されていません.火山活動の中心は一定期間ある箇所(火山の中心付近)に限られており,マントルや下部地殻で形成されたマグマが浮力でそこに繰り返し上昇してくるので,マグマ溜まりが存在し続ければ必ずマグマどうしが衝突して混合が起こります.
(05/19/05)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)

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