火山についてのQ&A集

Question #5476
Q 以前地学を教えたころから疑問を抱いて幾年月、微妙なケースが出題されない入学試験はいいものの、刺さる小骨が気になるように、今となっては興味本位、学会ではどうなっているのか気になります。すなわち火成岩の分類表に、{火山岩,(半深成岩,)深成岩}と{(超塩基性岩,)塩基性岩,中性岩,酸性岩}という2成分でまとめた表がありますが、その後者の成分は{SiO2比,色指数,造岩鉱物の比率,酸化物の比率}のいずれをもって普通は定義されているのか宜しければ教えていただけないでしょうか。 (04/20/04)

AXY:高校生/大学生:28

A
 日本の高校地学の教科書ではご指摘のような火成岩の分類表が用いられていますが,地質学,岩石学,地球化学などの学会では,国際地学連合 (IUGS) の分類案が尊重されています.これは,火山岩については,化学組成(主にシリカSiO2と全アルカリNa2O+K2Oの量)を用い,深成岩については鉱 物の量比(モード組成)を用いるやり方です.火成岩は鉱物の種類と割合で分類するのが基本ですが,火山岩はマグマの急冷によって形成されるために結晶の 成長が悪く,多かれ少なかれガラス(分子の構造は液体と同じ)を含み,ガラスの多い岩石(例えば黒曜石)は鉱物の量比では分類できないためで す.IUGSの分類案 (Le Basほか, 1986, Journal of Petrology, 27, 745-750; 1991, Journal of the Geological Society, London, 148, 825-833) によると,アルカリが少ない通常の火山岩は,SiO2=45-52%が玄武岩,52-57%が玄武岩質安山岩,57-63%が安山岩,63-69%がデ イサイト,69%以上が流紋岩(ただし,69%以上でもアルカリが非常に少ないものはデイサイト)となっています.IUGSの分類案は,「記載的である こと」,「解釈に基づかないこと」,「広く用いられている語であること」,「数値で区分されること」,「分類が単純であること」,「可能な限りモード組 成に基づくこと」,「不可能な場合は化学分析値によること」など10条の基本方針に基づいています.
 火山岩と深成岩を一緒にした日本の教科書の分類表は,日本や外国の岩石学の専門書ではあまりお目にかかりませんが,非常にわかりやすく説明に便利なの で,今後も使っていけばよいと思います.縦に深成岩・半深成岩(2種類)・噴出岩,横に鉱物成分をとって岩石名を並べた表は,坪井誠太郎先生の「岩石学 I 」(1939岩波全書,手許にあるのは1950第7刷,p. 22の第3表)に載っており,恐らく戦後地学の教科書を作る時に,誰か気の利いた人がこの表にSiO2量の目盛りや鉱物量比の図を加えたのでしょう.そ の後1980年代に「半深成岩」が削除されて,現在の形になりました.教育的には優れた表だと思います.
 (05/05/04)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)


Question #5474
Q 火山のマグマの温度はなんどですか?またどうやって測るのですか?
専用の温度計があるのですか?

(04/18/04)

安達慶祐:小学生:10

A マグマが地表に出て溶岩流や溶岩湖になった場合には,専用の温度計ではなく, 製鉄所の溶鉱炉や陶磁器の窯などでも使われている高温まで測れる温度計を使って測ります. 一つは「熱電対線」と呼ばれる金属線を使った棒状の温度計で,これを溶岩に突き刺して 内部の温度を測定します. また,別な方法として溶岩の表面から出てくる光の色(波長)と強さをもとにして 温度を測る「放射温度計」という温度計もあり,こちらは離れたところから 温度をはかれるので便利ですが,表面の温度しか測れません.

地下深くのマグマの温度は「鉱物温度計」をつかって測ります. いっしょに存在できる鉱物の種類や化学組成がマグマの温度の違いによって変化する ことに基づいた温度計で,火山噴出物から得られた鉱物の化学組成を分析して温度に換算します.

マグマの温度はマグマの種類や噴火の状況によって違うので一言では言えませんが, 地表近くでだいたい800〜1200度程度でしょう. 地下深くの出来立てのマグマは1300〜1400度くらいと考えられています. 特殊な例として,カーボナタイトとか硫黄のマグマといったマグマの場合には, それぞれ600〜800度,150度程度とかなり低温です. 地表に出た溶岩の温度を実際に測った値としては,ハワイのキラウエア火山の玄武岩溶岩の 1120度〜1190度や,昭和新山のデイサイト溶岩の900〜1000度といった例があります.
 (05/04/2004)

安田 敦(東京大学・地震研究所)


Question #5469
Q いつもこのコーナーを楽しみにしております。

 私は、鹿児島県に住んでいるのですが、県外の友人に「シラス台地のシラスは、どうしてカタカナなのか?」と聞かれました。インターネットなどで語源を調べた所、日本語の「白洲」から付けられたと書かれていました。「シラス」の語源となぜカタカナ標記なのかを教えて下さい。お忙しい所、すみませんが、よろしくお願い致します。 (04/06/04)

まゆ:社会人:27

A
 シラス台地の「シラス」は,白い砂を指す南九州の方言です(白い砂を「シラス」と呼ぶところは実は南九州だけではなく,日本中にあります).火山県鹿 児島では白い砂の大部分が非溶結(ひようけつ)の火砕流堆積物だったわけで,その火砕流堆積物がつくる台地をシラス台地と呼んでいます.
 日本語に由来するのだから,ひらがな表記でいいように思われるかも知れませんが,学術的に「もの」を記述する場合にはカタカナを使うことが多いようで す.たとえば鳥の図鑑を見てみて下さい.すずめではなくスズメと書いてあるでしょう.
 さて,この前の文章で,「すずめ」を認識して読みやすいのはひらがな表記ですか?カタカナ表記ですか?そういったことから,学術的に「もの」を書くと きにはカタカナ表記がなされることが多いのだと思います.
 「シラス」と「しらす」の表記に関するお話が http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/shirasu/index.html にありますので見てみて下さい.
 (04/09/04)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #5465
Q 毎回楽しみに拝見させていただきます。
今回は薩摩硫黄島について質問させていただきます。
尚、全くの素人ですので考えに間違いがあるかもしれませんがご容赦下さい。

Q1、最近は小規模な噴火をしてるみたいですが、噴火の判断材料として白灰色の噴煙を

  上げたり村に降灰があった場合と思います。

  噴火とは思いますが、私のイメージでは噴気の勢いが強くなり火口近辺に積もってる

  火山灰を吹き上げてるように思います(91を参照しました)が、これも噴火と判断する

  のでしょうか?

  又、噴火形態としてはストロンボリ式になるのでしょうか?

Q2、1998年以降に硫黄島の噴火が報じられるようになったと思います。

  火山性地震・微動もよく発生してるみたいですが、これは硫黄島が活動が活発になった

  のでしょうか?

  それとも観測精度が上がったor噴火とする判断基準が変わったなどでしょうか?

Q3、三宅島で噴煙の為、帰島が遅れてますが硫黄島も離島で且つ噴気が活発な為、条件が

  同じように思えます。

  山肌とか見ますと火山ガスの影響もあると思いますが、ガスの成分・噴気形態など

  三宅島との条件の違いが有りましたら教えて下さい。

  
Q4、記憶が確かではありませんが、硫黄島の火口では良質のケイ石(?)が採取できると

  聞いてましたが、最近の活動が活発な状態でも行っているのでしょうか?

Q5、予測は難しいとは思いますが、最後に硫黄島の今後の活動の見通しを教えて下さい。


以上   (03/28/04)

松井:社会人:42

A A1
 薩摩硫黄島火山の硫黄岳山頂火口には、1997年頃から深い縦穴の火孔が形成し、そこから火山ガスと共に火山灰が放出されています。しかし、火山灰 は、過去に火山ガスによって変質を受けてできたケイ石を主体としていて、新鮮なマグマは出ていません。おっしゃるように、火口の下に堆積している昔の噴 出物の変質したものが、火山ガスにより噴き上げられている、と言えます。
 通常、火口から火山ガス以外(マグマ、岩石など)が噴出する現象を噴火と呼びます。では、火山ガスの勢いで周囲の火山灰が吹き飛ばされるだけの現象も 噴火と呼ぶかというと、定義上は呼べないことはありませんが、通常は呼びません。しかし、硫黄岳の火山灰の放出は間欠的で数百mもの高さの噴煙を上げる こともあり、単にガスの勢いだけで吹き飛ばされているわけではないので、噴火として見なされています。とはいえ典型的な噴火とは異なり、定義上も曖昧な 部分だと思います。自然はアナログなものですから、定義によりきれいに二分出来るとは限らないのです。
 このような硫黄岳の噴火を分類する典型的な用語もありません。強いて言えば新鮮なマグマの噴出がないことから水蒸気噴火と呼べるかもしれませんが、高 温の火山ガスが連続的に放出している火孔からの噴火なので、通常の水蒸気噴火とは全く異なります。Gas eruption(ガス噴火)という用語が、MacDonald(1972)のVolcanoesという教科書に載っています。これが最も適当な用語で すが、一般的には使われておりません。
 ストロンボリ式噴火は高温のマグマが間欠的に吹き上がる噴火ですので、全く異なります。

A2
 薩摩硫黄島の場合は噴火の判断は、噴煙と降灰の有無が基準であり、地震は直接考慮されていません。ただし、噴煙も降灰も注意して観測している方が小さ な噴火でも検知できますので、噴火の回数の増加にはそのような要素も含まれてはいます。しかし、1997〜98年以降に降灰の量が多くなったのも事実で す。

A3
 三宅島でも、毎日火山ガスが集落に流れてきているわけではなく、年に何日か、かなり濃厚な火山ガスが集落に到達することがあり、それが問題になってい ます。三宅島の場合は西風によって東側の集落に高濃度の火山ガスが到達する頻度が多いです。薩摩硫黄島でも火山ガスは東側に流れることが多いのですが、 集落は山頂の南西側に位置するため高濃度の火山ガスが到達することはほとんどありません。 また、三宅島は山が比較的なだらかなため、風が強いと噴煙が山肌に沿って流れ下ることが頻繁にあります。硫黄岳は斜面がずっと急であるため、この風の吹 き下ろしは三宅島ほど頻繁に起きません。それに加え、薩摩硫黄島からの火山ガスの放出量はSO2の量で毎日500トン程度であり、三宅島からのSO2の 放出量の日量数千トンの約十分の一です。これらの条件が総合されて、三宅島では未だに高濃度の火山ガスが集落で観測されていると考えられます。

A4
 ケイ石の採掘は1997年頃まで続けられましたが、現在では行っておりません。

A5
 硫黄岳山頂火口内の火孔は、1997年頃に形成されて以来、火山灰を放出しながら拡大しています。現在では直径は100m以上の大きな火孔になってお り、ここから火山ガスと火山灰が継続的に放出されています。火山ガスの放出が活発な間は、爆発的な噴火などを起こすためのエネルギーは溜まりにくいと考 えられます。しかし、このまま火孔が拡大し、深くなった後に何が起きるかを予測することは困難です。 最近、火孔が形成し火山灰が放出されているとはいえ、火山ガスの放出量や地震活動のエネルギーが特に変化しているわけではありません。そのため、今起き ている変化は地表近くだけの変化であり、地下のマグマの動きやガス放出の過程は数十年前から余り変わっていないとも考えられています。そうだとすると、 山頂からの火山ガス・火山灰の放出と火孔の拡大は続くかもしれませんが、それ以上大きな変化は起きない、ということも考えられます。いずれにしても、今 の硫黄岳のような活動を観測した例はほとんど無いため、今後の活動の推移を見守ることが大事です。
 (03/29/04)

篠原宏志(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)


Question #5463
Q 最近テレビ(南日本放送の桜島の特集番組)で、桜島の北岳に水が溜まっている映像を見たのですが、現在はどうなっているのですか。また、桜島は雨が降ると土壌が吸収すると聞いたので、溜まっている状態で今後、住民に影響はないのですか。 (03/25/04)

まゆ:社会人:27

A 桜島の火口を常時監視しているわけではないので現在の状況はわかりません.桜島のように活動的な火山といえども時間が経過すると火山灰が粘土化して雨水 を吸収しにくくなります.そのために古い火口では火口湖が形成されます.例えば,霧島の白紫池や六観音御池です.また,桜島の南岳のように常時噴火して いる火口でも雨がたくさん降ると水がたまります.平成5年の8・6水害があった年には南岳にも水がたまりました.火口湖が形成されるほど水が溜まった火 口で噴火が発生すると噴火と同時に泥流が発生するのできわめて危険です.インドネシア・ジャワ島にケルートという火山がありますが,1919年に火口湖 から噴火し,泥流により5000人以上が犠牲になりました.桜島の北岳の場合は多量の水が溜まっているわけではなく,また,火口の東側の亀裂から水が山 麓に流れ出すのでその危険性はないと考えます.
 (03/26/04)

井口正人(京都大学・防災研究所・火山活動研究センター)


Question #5462
Q
 初めて書き込みさせていただきます。宮崎県の小林市に住んでますので、小説『死都日本』を読んで以来、周りの地形を見るようになりました。

 そこで、お尋ねしたいことがたくさんあるのですが、とりあえず幾つか質問させていただければと思います。


 人吉盆地は、火山地形ではないようですが、どうやって出来たのでしょう。過去のお答えを拝見していると、「鹿児島地溝」というものらしいですが、それは霧島から国分にかけて緩斜面が存在し姶良カルデラの壁が判らないのと同じなのですか? とすると、小説のような大爆発があり、何らかの要因が重なると、霧島も鹿児島湾と繋がったりするんでしょうか。運がよければ(?)かなり後の時代、人吉まで海になったりするとか。考えすぎですか。


 姶良と阿多の両カルデラの間は、火山に起因したものではないということですが、それでも大隈半島の高隈山地が中央火口丘で……、と考えると面白いのですが、高隈は火山地形なのでしょうか?


 小説で、鹿児島湾を失踪する火砕流のシーンがありましたが、あんな事件があった場合、その後鹿児島湾はどうなってしまうのでしょう。イメージ的には軽石で姶良カルデラが埋まってしまうように思えますが、いずれ外洋に流れ出し、錦江湾は元の姿を保つものなんでしょうか。


 小説に則した質問になってしまい、大変申し訳ありません。 (03/14/04)

小林市のにわか火山ファン:社会人:32

A
 「死都日本」は,火山学的にみてもよくできた小説です.あの小説がきっかけで,地形をよくみるようになったというのはすごいですね.作者の石黒さんも 喜んでいらっしゃると思います.さて,ご質問について一緒に考えてみましょう.
 人吉盆地は,鹿児島地溝の北の終点と考えられていますが,その成因についてはよくわかっていないところがあります.人吉盆地に堆積している地層は,古 いものほど大きく傾いていますから,この盆地が激しい地殻変動を受けながら形づくられてきたことは間違いありません.人吉盆地の南東縁には活断層の存在 も指摘されています.これらのことと人吉盆地内で火山活動があったという証拠がないということから,人吉盆地は,断層運動によって相対的に落ち込んでで きた盆地(構造性盆地)であると考えられています.しかし,どうしてあそこに構造性盆地があるのかはよくわかっていないのです.宮崎県の都城盆地も人吉 盆地と同様に成因がよくわかっていない盆地です.
 人吉盆地よりも南にある,加久藤盆地の中,すなわち加久藤カルデラの中は数100mに達する厚い堆積物で埋積されていますが,いずれも湖に堆積した地 層で,海が入ってきたという証拠はみつかっていません.加久藤盆地は加久藤火砕流の噴出以降,数十万年以上にわたって鹿児島湾と通じたことがなかったよ うなので,これから先もそれくらいの期間は海が深く入ってくることはないでしょう.
 大隅半島の高隈山は大箆柄岳を主峰としたいくつかの山の総称で,日本のブナ林の南限として知られています.高隈山系は,今から1200万年前くらいに できた花崗岩とその熱に焼かれて堅くなった堆積岩でできています.熱で堅くなってしまった堆積岩をホルンフェルスといいます(それぞれの岩石がどんなも のかは,お近くの図書館で地学事典などを見て調べてみて下さい).大箆柄岳などのピークのほとんどは堅いホルンフェルスが浸食に抵抗して残ったもので す.ですから,高隈山は火山が作った地形とは言えません.鹿児島地溝の形成に関与した可能性が指摘されている最も古い火山噴出物の年代は300万年前く らいと考えられています.
 大規模火砕流の後の鹿児島湾については難しい質問ですね.専門家でも意見が分かれるかも知れません.気候変動に伴って海水準も変化していますから答え は単純ではありません(たとえば,入戸火砕流が噴出したころは今よりも海面が100m以上下がっていたことが知られています.単純に100m海面を下げ ると鹿児島湾はかなり浅くなり,一部は干上がって外洋と分離されます)が,現在の状況で大規模火砕流が鹿児島湾を走ったとすると,その後はどうなってい るでしょうか?
 私自身は水面を軽石で覆い尽くされた,やや浅くなった鹿児島湾が残っていると思います.陸上部は厚い火砕流堆積物で埋め尽くされますが,海域部では, 摩擦が少ないために,火砕流の大部分は駆け抜けてしまうと思います.とはいえ一部は海中に入り,堆積すると思われます.海中に入った火砕流の細粒部分 は,そのまま海底に沈みますが,軽石はプカプカ浮いて海面を覆い尽くすでしょう.鹿児島湾で行われた音波探査などでは,鹿児島湾の底に古い時代の大規模 火砕流堆積物が何層もあることがわかっています.また,鹿児島湾の北岸,国分市や姶良町周辺では,古い時代の鹿児島湾に堆積したと考えられる水中堆積の 火砕流堆積物を観察することができます.大規模火砕流といえども,そう簡単に海を埋め立てることはできないようです.そう考えると,あっという間に埋め 立て地を作ってしまう人間はすごいですね.
 (03/29/04)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #5460
Q 質問をさせていただきます。現代の技術で岩を溶かす温度を作ることができるのでしょうか?
もし、できたとして、溶岩を入れる器はあるのでしょうか?焚き火をした程度でも近寄れない熱さを感じますが、6000度という、とてつもない温度では、周りの影響もすごいことになるのではと思います。マグマが燃えるのにも酸素がいるのではと、思いますが、どうやって酸素を得ているのですか?太陽も不思議です。よろしくお願いします。 (03/07/04)

bashar:社会人:46

A 岩石の融ける温度は岩石の種類によって異なりますが,日本で見られるような普通の岩石の場合,800度から1200度程度で融かすことができます.

6000度という数字は太陽の表面温度か地球の中心の温度だと思います.また,岩石やそれが融けて出来るマグマはもうすでに酸素とくっついてできている 酸化物なので,「燃える」という表現は適当ではありません.

たき火や台所のガスレンジなどでもそれらの炎の一部は岩石の融点を超す温度になっていますが,これらを用いて岩石を融かすのはなかなか困難です.岩石を 融かすためには「熱」を岩石に与えて岩石の温度を融点まで高める必要があります.一方,「熱」受け取った岩石は,伝導や放射などでもらった「熱」をどん どん周囲に放出してしまいます.したがって,岩石を融かすためには放出されるよりも多くの「熱」を岩石に与えて岩石自体の温度を融点まで上げる必要があ ります.このためには,岩石のぐるり周囲を融点をはるかに超える温度で囲んであげる必要があります.製鉄所の溶鉱炉などはこうした温度を実現できます し,融かす対象物が小さなもので良いのならば,工事現場で見かける酸素ーアセチレンバーナーなどでも3000度を超えるような温度を実現できるので,こ の炎を当てれば岩石を融かすことが可能です.焼き物や工芸用に市販されている電気炉やガス炉でも製品によっては十分に温度を上げることができます.

研究などで少量の岩石を溶融させる場合には,プラチナ(融点1772度)など融かす対象よりも高融点の材質でできたるつぼに入れて,電気炉で融かしてい ます.

(03/26/04)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)


Question #5452
Q
 社会人になってからプレート・テクトニクスのような地球科学の基礎的な書籍から遠ざかっておりましたが,最近,ケネス・J・シュー博士が書かれた「地球科学に革命を起こした船グロマー・チャレンジャー号」を読む機会があって,たいへんおもしろく読ませていただきました。その時から疑問に思っている中央海嶺の形態について,質問させて下さい。

 大西洋中央海嶺は,海底から比高2〜3kmで,中軸部は正断層によって明瞭な中軸谷が形成されているということです。新しい溶岩はこの中軸谷の谷底付近から噴出し,ここがプレートの拡大軸となっているようです。しかし,ここから拡大が進むとすると,大陸地域のリフトバレーと同じように中軸谷の幅が拡がるのみで,現在の大西洋中央海嶺で見られるような幅の狭い中軸谷の両側に海嶺頂上部をもつ断面形態は維持できないと思うのですが,何か私の考えが及ばない特別な機構があるのでしょうか?

 私の貧弱な頭で思いついた考えは,
@溶岩の噴出と中軸谷の拡大・形成が交互に起こり,中軸谷から大量のマグマを噴出する時期には大量の噴出物が中軸谷を海嶺頂上部の高さまで埋め,その後マグマが噴出した場所で拡大が生じて中軸谷が形成された。
A中軸谷を形成した正断層が,拡大によって移動するとともに逆断層的に動いて,変位を解消しながら高くなって海嶺頂上部を形成した。

 くらいです。ただ,Aの動きは比較的狭い範囲で,応力状態が変わらなければならないので,難しいような気がします。どのように考えられているのか教えて下さい。 (02/20/04)

地質コンサルタント:社会人:48

A 私もプレート拡大境界のテクトニクスを専門に研究しているわけではないので,教科書的な知識とアフリカのジブチにおける観察(昔,「地球大紀行」の取材 に同行した)に基づいてお答えします.ジブチではインド洋中央海嶺が地表に露出しています.海嶺軸と平行な正断層が何本もあり,軸から両側へ高くなる階 段状の地形が見事に発達しています.1978年にこの海嶺軸上で噴火が起こり,アルドゥコバという小さな火山ができました.この前後の期間は海嶺軸に 沿って地震が頻発し,この間に海嶺軸の両側で最大2m地殻が拡がり,海嶺軸付近の中軸谷は50cm以上沈下しました.この部分は乾燥した陸地ではありま すが,標高は海面下150m程度にもなります.重要なことは,このような「拡大イベント」の時は正断層が活動して地殻が両側へ拡大し,中軸部が沈降しま すが,通常この地域全体としてはゆっくり隆起していることです.これは下から熱いマントル物質が湧き上がってくるためで,海嶺軸の両側の階段状の地形全 体がドーム状に盛り上がっている部分も見られます.つまり,正断層が逆断層のように動いて中軸部が盛り上がるのではなく,一度できた正断層はそのまま, またはやや外側に傾くようにして両側へ運ばれ,中軸部の新しく形成された火山岩の地殻に新たな正断層ができると考えられます.これは「アキレスと亀」の ような話で,考え出すと難しくなりますが,実際の事例に即して理解することが肝要だと思います.ジブチと同様の火山活動と地殻の動きは大西洋中央海嶺上 のアイスランドでも見られますが,拡大速度の大きい東太平洋海膨では隆起速度も大きいためか,中軸谷の地形が不明瞭になっています.丸善の「空からみる 世界の火山」の50節や61-64節を読まれるとよいと思います.
 (02/23/04)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室)


Question #5414
Q はじめて質問します。
私は宮崎県の出身です。理科の教師を目指していることもあり、大学のお正月休み中に前から気になっていた地元の“大崩山・行縢山・可愛岳”の形成について調べることにしました。しかし、地元の図書館に行ってもそれほど多くの資料もなくインターネットで調べても得たい情報が得られません。ぜひ、私の質問にお答え下さい。

1.花崗岩と花崗斑岩とはどうちがうのですか?

2.花崗岩の貫入により大崩山が形成されたのち、花崗斑岩の貫入によって行縢山・可愛岳などの環状岩脈(リングダイク)が形成されましたが、その形成について調べていたら1種のカルデラであると出てきました。阿蘇のカルデラは負の重力異常により形成されたカルデラであるが、大崩山のカルデラは正の重力異常により形成されたカルデラで“バリアス式カルデラ”とも呼ばれるとも書かれてありました。このバリアス式カルデラとは一体どんなものなのか、またどのように形成されるのかいまいち分かりません。あるものにはカルデラの落下を引き起こした円筒形の断層に、マグマが進入して環状岩脈ができたとも書かれてあり、一体どうなっているのかさっぱりです。

3.大崩山はすべて花崗岩ではなく、途中8合目辺りから四万十地層がありますが、これは四万十地層群が始めあった所に花崗岩が貫入したからこうなったと考えてよいのでしょうか?

ぜひ、教えてください。 (01/12/04)

さくら:高校生/大学生:18

A まず入手可能な日本語の文献として以下のものがあります.

(1) 高橋正樹著「花崗岩が語る地球の進化」シリーズ自然史の窓7 岩波書店(1999) 147P:一般向けの本で第4章「花崗岩が生まれた現場を歩く」で大崩山花崗岩の解説がしてあります.大きな図書館に行けばこのシリーズの本は置いてあ ると思います.
(2) 奥村公男・酒井 彰・高橋正樹・宮崎一博・星住英夫 著 地域地質研究報告 5万分の1地質図幅「熊田地域の地質」工業技術院地質調査所(現・産業総合研究所) (1998) 100p:詳しい地質解説と地質図がついています.

質問1:花崗岩は粗粒等粒状(鉱物の粒が粗くて大きさが同じくらい)ですが,花崗斑岩は大きな結晶(斑晶といいます)とその間を埋めたやや細粒の結晶 (石基といいます)からなります.斑状なので花崗斑岩といいます.花崗岩とくらべて,より急冷した条件下でマグマから結晶化した岩石です.
質問2:カルデラは地形的な用語なので,地形的にへこんでいないと使えません.カルデラのうち陥没カルデラの仲間にバイアス(Valles)型カルデラ というのがあります.バイエス型とよぶこともありますが,もともとスペイン語なのでバイアスが最も原語読みに近いと思います.バリアスではありません. バイアス・カルデラはアメリカ合衆国西部にある大規模なカルデラで,環状の割れ目に沿ってカルデラの内側がピストンシリンダーのようにスポッと抜けたよ うに陥没したカルデラであると考えられています.環状割れ目からは陥没の後に溶岩ドームが噴出して,やはり環状に並んで配置しており,地下では環状の岩 脈を形成していると考えられています.こうしたカルデラが後の時代に隆起浸食を受けると,山岳地帯にカルデラの地下構造が露出するようになります.こう したカルデラの地下構造は陥没構造はありますが全体としては隆起して山を作っているので,地形的なカルデラとはよべません.そこでこうしたものをコール ドロンとよんで区別することが一般的です.大崩山岩体の環状岩脈はこうしたコールドロンの一部を構成しています.バイアス型カルデラは負の重力異常を示 しますが,過去のカルデラであるコールドロンはカルデラを埋めた軽い堆積物が失われていることが多いので,必ずしも負の重力異常を示すとは限りません. ただし,現在の大崩山花崗岩付近は負の重力異常を示しています.これは花崗岩体が周囲の岩石よりも軽いためと思われます.大崩山岩体では,最初に花崗斑 岩が貫入し,最後に花崗岩体が貫入しています.花崗斑岩の環状岩脈が後ではありません.
質問3:その通りです.よく観察していますね.大崩山では花崗岩体の水平な天井部がよく残されています.四万十層の堆積岩中に頭部の平たい花崗岩体が貫 入したためにこうした構造が残されているのです.ここでも堆積岩よりも花崗岩が後から貫入しています.
 (1/13/04)

高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Question #5405
Q マグマの発生について質問します。
火山についての記述の中に次のような文がありました。
「上部マントル中で発生するマグマは、そこに存在する橄欖岩がすべて溶融したものでは
なく、橄欖岩の成分中のSiO2の重量%が大きい成分だけが溶融してマグマとなる。」
これを具体的に説明していただければ幸いです。特に、SiO2の重量%が大きい成分と
は何でしょうか。
よろしくお願いします。 (01/06/04)

公務員:社会人:53

A 参考になさった記述はあまり正確ではありません. 「橄欖岩の成分」というのはおそらく橄欖岩(カンラン岩)を構成する鉱物のことを指しているものと思われます.カンラン岩を構成する主要な鉱物は4種類 で,圧力によって異なります.比較的低圧下では,<カンラン石,斜方輝石,単斜輝石,斜長石>という鉱物であり,やや圧力が高くなると,<カンラン石, 斜方輝石,単斜輝石,スピネル>に変化します.もっと高圧下では,<カンラン石,斜方輝石,単斜輝石,ざくろ石>という鉱物組み合わせに変化します.こ れらの鉱物の量比については,通常のマントルを構成するカンラン岩の場合,カンラン石が60〜70%程度と大部分を占め,次に多いのが斜方輝石で10〜 20%程度を占めています.

さて,こういったカンラン岩が融解してマグマを発生する場合には,程度の差こそあれどの鉱物も融解しています.発生したマグマは結果的には融解の程度が 高くなる(マグマの量が多くなる)につれてSiO2の重量%が乏しくなりますが,これは融解した鉱物の量比に依存するのであってどれか特定の鉱物のみが 融解した結果ではありません.例えば,カンラン石,斜方輝石,単斜輝石,スピネルという鉱物組み合わせをもった平均的な組成のカンラン岩の場合,マグマ の発生領域ではマグマの量が増加するにしたがって

<カンラン石,斜方輝石,単斜輝石,スピネル,マグマ>→ <カンラン石,斜方輝石,単斜輝石,マグマ>→ <カンラン石,斜方輝石,マグマ>→ <カンラン石,マグマ>

のようにマグマと共存する鉱物の組み合わせが変化します.この時にもカンラン石はマグマに融けていますが,融けにくい鉱物であることと元々の量が多いこ とから結果的に最後まで残る鉱物になっています.

ちなみに,これらの鉱物の化学組成を見ると,スピネルはAl酸化物,Mg酸化物,Fe酸化物を主体とする鉱物であって,SiO2はほとんど含まれていま せん. 単斜輝石のSiO2の重量%は温度や圧力によって異なりますが,51-54重量%程度が普通です.いっぽう,斜方輝石のSiO2の重量%も温度や圧力に よって異なりますが52-57重量%程度が多く,単斜輝石よりもややSiO2成分に富んでいる場合が多いようです.カンラン石のSiO2の重量%は 40%程度です. (01/08/2004)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)


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