火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

火山の恵み・火山活動の影響

水質・泉質


Question #301
Q
 先日、草津白根山に行ったのですが、湯釜と弓池の水質の違いに驚きました。噴火した年代が違うと言えばそれまでですが、 時間の経過と水質の変化について深く知りたいので教えてください。 (10/25/99)

今日はいい天気:学生:18

A 弓池は単なる天水(雨水や雪)に土壌から供給される硫酸イオンが加わった水です。 その硫酸イオンは土壌に含まれる火山起源の硫黄が微生物の作用によって酸化して形 成されます。弓池の水には塩化物イオンはほとんど含まれていません。 一方で湯釜の水には火山ガスや温泉水が直接混ざっています。これらは湖底にある噴 出孔から放出されています。これらのガスや水には塩化物イオンが高濃度で含まれて いるので湯釜の湖水には高濃度の塩化物イオンが検出されます。そのため湯釜の酸性 度は弓池より強くなっています。塩化物イオンの起源は白根山の深部に存在すると考 えられるマグマです。塩化物イオンはマグマからの寄与があるかないか判別する指標 になります。湯釜も約100年前には弓池のような沼で魚が生息していたとの記録が あります。その後火山活動が活発化し現在のような水質に変化しました。 (11/12/99)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #342
Q 》なぜ、伊豆半島には、温泉が多いのですか?
》なぜ、狭い地域に2種類の温泉が沸くところがあるのですか?(熱海だったら、塩化物泉戸と、硫酸塩泉とか…。温泉のでき方に違いがあるのですか?)
》なぜ、静岡県には、酸性泉、放射能泉が無いのですか? (12/03/99)

Kndo:学生:15

A 伊豆半島の下では太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に潜り込んでいます。 このため伊豆諸島や伊豆半島には火山が多数存在します。火山の近くでは地下水がマ グマの熱で温められて温泉が形成されます。これが伊豆半島温泉が多い原因です。 狭い地域に異なった水質の温泉が出来る原因は地下で蒸気と熱水が共存しているため と考えられます。温泉が存在する地域の地下では圧力釜のような部分があり,蒸気と 高温の水が共存しています。このとき水の部分には塩化物が溶けやすいのですが蒸気 には塩化物は含まれません。一方,硫化水素というガスは蒸気の方に多く含まれます 。硫化水素は地下を移動する間に酸化されて硫酸になり地下水に溶けて硫酸塩泉を形 成します。高温の水の部分も地下水に混ざり塩化物泉を形成します。このために狭い 地域に異なった泉質の温泉が存在すると考えられます。 静岡県に酸性泉や放射能泉が存在しないかとても少ないのは私には簡単には答えられ ない質問です。火山の種類によって随伴する温泉の泉質には明確な違いが見られます 。すなわち伊豆半島には酸性泉や放射能泉を随伴するタイプの火山がないか少ないと 言えますがこれでは完全な答えにはなっていないでしょう。理論的には答えられない のですが,経験的には玄武岩質の溶岩を出す火山には酸性泉や放射能泉はすくないよ うです。安山岩質〜流紋岩質の溶岩を出す火山は酸性泉や放射能泉を伴うものがいく つか存在するようです。伊豆半島や伊豆諸島の場合は玄武岩質の溶岩を出す火山が多 く存在します。 (12/6/99)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #373
Q
 私は水質検査の仕事をしておりますが。水道水源ダムの過去の水質データを
調べていた際,窒素濃度が急激に高くなった年がありました。この年は1977年で,
有珠山の噴火がありました。当地は同山より北東約50km程の所にあり,降灰があ
りました。

 有珠山の噴火により,窒素酸化物(硝酸等)が産生ないし噴出し降雨や降灰によ
って当地まで到達する可能性はあるのでしょうか?お教え願います。また,1977
年の有珠山噴火についての気象データ,環境データ等をご存じでしたら所在も含め
お教え願います。

(01/09/00)

TAK:公務員:30

A 火山灰に硝酸イオンが付着していた事例は雲仙普賢岳の場合に認められました(文献 ;赤木,山本(1995):Okayama University Earth Science Reports, vol.2, p55-62 )。しかしこの硝酸の起源については不確定です。すくなくとも火山ガス中には窒素 化合物が少ないので硝酸がマグマ起源である可能性は低いと思われます。そうすると 起源として,大気中に存在する窒素酸化物が変化して火山灰に硝酸として付着したか ,あるいは火山灰に肥料起源の硝酸イオン含む土壌が混入したか,という可能性が考 えられます。 1977年の有珠山噴火についての気象データ,環境データですが所在等にかんして存じ ません。気象台あるいは北海道立地下資源研究所が把握しているかも知れません。 (1/12/00)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #407
Q
 火山と水質(特に酸性度)との関係を教えてください。私は中学校の理科の教諭をしてますが、今年度の選択の授業で地域の水質検査を行いました。いくつかの項目の中で、河川のpHを測定したところ、ある河川のpHが妙に低く、しかも上流ほど酸性度が高くなるような傾向が見られました。その河川の上流は酸性火山岩類が分布しているので、その影響かなぁと考えています。

 実際、酸性火山岩類の影響で河川の酸性度が上がったり、あるいは熱水等の影響で土壌が酸性になることはあるのでしょうか。教えてください。

 私、静岡大学出身です。小山先生、覚えておられるでしょうか・・・。 (02/20/00)

唐澤 譲 :中学校教員:31

A
 私は水のことは全く分かりませんが,手近な本を読んだ程度の知識でお答えすると ,以下のようになります.
 火成岩の「酸性・塩基性」と水の「酸性・アルカリ性」は関係ないと思います.「 火山の水は酸性」という「定説」はなく,火山体の中や周囲に湧き出る温泉も,硫酸 塩泉は酸性(ph3程度)ですが,重炭酸塩・硫酸塩泉や塩化物泉,混合泉などは,だい たいアルカリ性(pH8程度)です.(日本火山学会編,1972, 「箱根火山」,p. 158) .川の上流地域の植生や土壌の性質,酸性雨・酸性雪など降水との時期的な関係や季 節による変化,農作業で使う肥料や農薬との関係,酸やアルカリを含む工場排水や家 庭排水との関係など,様々な原因で河川水の酸性度は変化すると思います.なぜその 川だけ水が酸性になるのかと言われれば,すぐには答えられませんが,上流に酸性岩 が露出しているから川の水が酸性だということはないと思います.例えば典型的な酸 性岩である花崗岩から湧き出す天水起源の鉱泉水は弱アルカリ性とのことです(松葉 谷 治「熱水の地球化学」裳華房ポピュラーサイエンス,p.107). (2/22/00)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) 


Question #1626
Q 志賀高原にある大沼は志賀山の溶岩流によるせきどめで、できた沼だと聞いていますが、なぜ強酸性の沼になったのですか? (03/16/01)

もみん:中学生:15

A 大沼池の東方,約1kmのところに赤石山があり,その西山麓には赤石沢という河川が あります.この河川の源には硫酸イオンを含む強酸性の鉱泉が存在し,そのpH は 2.8と,大変低いことが知られています.この強酸性の水が赤石沢を流れ下り,大沼 に注ぎ込みます.そのために大沼は酸性の湖になってしまい,魚が生息していないそ うです.赤石山の南にはガラン沢という沢があり,火山ガスが発生している場所があ ります.さらに南にゆくと草津白根山という活火山があります.赤石山は活火山では ありませんが,もしかしたら,昔の火山活動の名残で強酸性の鉱泉が湧き出している のかも知れません.(参考文献:「大地が語る信州の4億年」信州大学「信州の4億 年」 編集委員会編,郷土出版,1600円,ISBN4-87663-262-6) (3/21/01)

大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)


Question #2855
Q 先日、高校の研修旅行で大涌谷(兼箱根)に行ったのですが、その際ガスが噴出しているところから500m近くの距離がある水溜りのphを測ったところ、4以下のphが出ました。あまりの低さについついその水溜りを避けてしまったのですが、これは火山ガスの影響なのですか?もしそうならば大涌谷の火山ガスにはどのような成分が含まれているのですか?教えてください (10/08/02)

みたらし:高校生:16

A 大涌谷でいろいろ測定されたようですね。とても良い体験だと思いますが、噴気地帯 はいろいろな危険がありますのでくれぐれも気をつけてください。

さて、大涌谷の地表にある水は酸性が強いですが、これは主に硫酸が含まれているこ とが原因となっているようです。硫酸の起源はみたらしさんがお考えのように火山ガ スだと考えられますが、どうして硫酸なのかというとちょっと難しい問題があるよう です。火山ガスには二酸化硫黄(亜硫酸ガス;SO2)が含まれていておそらくこれが 硫酸の元となっていると考えられます。これが水と反応するとH2 SO3が出来るのです が、これは亜硫酸というもので、硫酸ではありません。大涌谷の水を測定するとSO4 --(硫酸イオン)は検出されるのですが、S03 --(亜硫酸イオン)は検出されませ ん。おそらく、火山ガスが水に溶け込むだけでなく、空気中の酸素が水に溶け込み亜 硫酸と反応することではじめて硫酸が出来るものと考えられます。

これがおおよその考え方ですが、硫酸イオンがどこで出来ているかというのを考えて いくとちょっと話は難しくなります。硫酸イオンができるためには空気中の酸素が必 要だとする考え方で行くと、地下深くの温泉は空気に触れる機会がないと考えられる ので硫酸イオンは含まれず亜硫酸イオンに富むことが予想されるのですが、現実には 地下の温泉も硫酸イオンに富んでいます。こうした観察を「表面の地下水は地下のか なり深いところまで供給されているのだ」として説明する考え方がある一方で、「亜 硫酸の自己酸化によって硫酸が出来るのだ」とか、「硫酸は火山ガスの影響で出来た 硫化鉱物からもたらされたのだ」という説明もあります。興味があったらぜひいろい ろと調べて硫酸の起源「みたらし」説を発表してください。

もうひとつ、大涌谷のガス成分ですが一般的に多くの火山でそうなのですがほとんど (99%ちかく)が水蒸気です。水蒸気以外のガスで最も多いのは二酸化炭素、その次 が硫化水素で、二酸化硫黄はほとんど含まれていません。二酸化硫黄がほとんど含ま れていないのは、大涌谷ではマグマから直接出てきたガスが噴出しているわけではな く、地下水と反応したあとのガスが出てきているためです。二酸化硫黄は水に溶けや すいので、大涌谷のように表層に水がたくさんある地域だと仮に二酸化硫黄の供給が あっても地表に出る前に水に溶け込んでしまうと考えられます。硫化水素は二酸化硫 黄と水が反応して出来たもので、箱根のように地表近くに水がたくさんあるところか ら出てくる火山ガスとしては一般的な成分です。
 (10/17/02)

萬年一剛・石坂信之(神奈川県温泉地学研究所)  --