火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

火山のできる場所と地球の大構造

火山帯・西日本火山帯・東日本火山帯


Question #42
Q 火山帯に属さない、単成火山というものがあると聞きましたが、具体的にはどのようなものなのでしょうか、なぜ、そのような火山ができたのでしょうか教えてもらえないでしょうか (9/18/97)

山口:会社員:34

A
 プレートテクトニクスの登場以来,「火山帯」という漠然とした言葉はあま り使われなくなりました.おそらく,日本付近のような島弧火山列(帯状の火 山密集帯)をさして「火山帯」と呼ばれておられるのだと思いますので,その 観点からお答えします.
 おっしゃる通り,通常の「火山帯」とは異なる中国,オーストラリア,フラ ンス,ドイツのような大陸の内部に点々と火山が分布する例があります.それ らの多くは単成火山です.
 単成火山は,1回きりの噴火(通常は数年以内)を起こし,それ以降は二度 と噴火しない火山のことです.単成火山の噴火の結果として,小さな(通常は 直径数km以内)火山体や火口が作られます.
 大陸地域に点々と分布する火山がなぜそこに存在するかについては,(1)そ の場所の地殻に引っ張りの力が加わっている,(2)その場所に地下深くから マントルの流れがわき上がっている,などの原因が考えられています.
 ただし,単成火山自体は大陸地域特有のものではなく,日本のような「火山 帯」にも存在します.お住まいの近くでは日本海側にある阿武単成火山群がそ の例です. (9/19/97)

小山真人(静岡大・教育)


Question #289
Q
 火山前線と火山分布および地下のマグマ溜に関してご教示ください。(1)火山の山体の地下にはマグマ溜が存在すると思われますが、日本列島を縦断するこの火山前線の地下にはどのような状態(形、大きさ、深さ等の形状)でマグマ溜が存在していると考えられているでしょうか。(2)火山前線は深さ120〜130kmの深発地震面にほぼ一致しているようですが、この辺りで初めてマグマが生成され、また、更に深くなるとマグマが精製されなくなると考えてよいでしょうか。(3)プレ−トがマントル中に持ち込む水の量とどのような状態で持ち込むのか。そして水が融点を下げるとのことですが、どのようなメカニズムで融点が下がるのでしょうか。 (4)マントルで生成されたマグマが上昇してきて、地下数kmのマグマ溜に溜まると聞きましたが、日本列島の地下のマグマ溜に流入してくるマグマは全て玄武岩質マグマなのでしょうか? それとも、マントル内ではなく地殻内部でマグマがつくられるのでしょうか。(1)から単純に推定するとマントル内でマグマが生成されている思われますが。 (10/9/99)

Jun:教員:51

A 回答に窮する難しい質問ですね。マグマ溜りの存在形態や火山前線の成因については 火山研究者の間でも議論となっている大きな問題です。より詳しく知りたい場合には 末尾に示す参考図書などをご参照下さい。これらの図書はふつうの図書館などにも よく置かれています。 (1)マグマ溜りの形態について
 現在、火山の下には複数のマグマ溜りがあると考えられています。一回の火山の 活動期に限っても、火山活動の推移や噴出物質の組成変化あるいは地殻変動の観測など から、幾つかのマグマ溜りの存在が示唆される場合があります。一つの火山が何回もの 噴火で作られる場合にはなおさら、深さも大きさも異なる幾つものマグマ溜りが関与 したと考えられています。地震波による物理探査では、火山体の地下数kmあたりに マグマ溜りであると思われる複数の独立した地震波反射面が見える場合や、地震波の 吸収が大きいことからマグマの存在を予想させる巨大な領域がより深部に発見されたり しています。マグマ溜り体積としては、噴火前のマグマの圧力による地殻変動などの データや、火山噴出物そのものの体積から、小さいものでは数立方キロメートル以下 から大きなものでは数千立方キロメートル以上まで、予想されているマグマ溜りの 大きさも様々です。
 マグマ溜りが形成される可能性のある場は、マグマの密度と周囲の物質の密度が 釣り合う場所、周囲の物質の変形速度が遅いのでマグマの上昇が阻害され結果的に マグマが滞留する場所、という2つが考えられます。マントルで生産された玄武岩質 マグマは周囲の固体マントル物質よりは軽いので上昇します。マントルと地殻の境界では、 マグマと周辺物質との密度差による浮力が低下することや周辺物質の流動しにくさのため、 一時的にマグマの滞留がおこることが予想されます。ここがマグマ溜りの最初の候補地です。 マグマ溜り形成の次の候補地は、玄武岩質マグマが周囲の固体物質と密度的に釣り合うこと ができる下部地殻から上部地殻の下部あたりです。ここに停滞したマグマは、周辺物質を 取り込んだり結晶分化をしたり、あるいはマグマ中にとけ込んでいた揮発性物質の発泡に よって密度が低下するので、さらにより地殻浅所の密度の釣り合う深度に向けて上昇し、 さらに別のマグマ溜りを形成すると考えられています。つまり深さの点では、地殻ー マントル境界から火山の地下数kmあたりまでの様々な深度にマグマ溜りは存在する 可能性がありうるわけです。マグマ溜りの形状については、周囲の物質の強度もおおいに 影響すると考えられます。周囲の物質が流動性をもった地殻下部では、マグマは周囲の 物質を押しのけてある程度まとまった空間を確保することが可能かもしれません。一方、 地殻の浅い部分ではマグマ溜りの周囲の物質は流動せずに割れるようになります。 このため、上昇するマグマは周囲の岩盤を割りながら移動するので、マグマ溜りの形状も、 1枚の板状やある空間に板状のものがたくさん集まったような形態になると思われます。 長い時間を経過して割れた周囲の岩盤を溶かしてしまえば、地殻の浅い部分でもある程度の 塊としてのマグマ溜りが存在できるでしょう。 (2)深発地震面とマグマ生産の関係
 プレートの年代が非常に若くて薄い(冷えていない)場合を除いて、火山前線に 対応するような120〜130kmの深発地震面あたりの温度は、プレート表面やそれに 接するマントル物質を溶融させるほど高温ではないと考えられています。普通の沈み込み帯の 場合には、プレートから放出された水がプレート表面よりかなり離れたマントル内の もっと高温の部分に到達した段階で初めて、マグマの生産が行われると考えられています。 深発地震面はプレートから水が放出される場に対応している可能性がありますが、 脱水過程と地震発生との関連は諸説があり必ずしも決定的ではありません。 (3)水のもちこまれかた、融点降下。
 水は海洋底堆積物の粒間に保持されたりあるいは含水鉱物の形で、プレートの沈み込みと ともにマントル内に持ち込まれます。このうち前者は沈み込みのかなり早い段階で圧密に よって大部分の放出が完了してしまうので、100kmを越えるような深度への水の持ち込みの ほとんどは含水鉱物が担っていると考えられています。含水鉱物はその組成・種類によって 固有の様々な温度圧力条件下で分解して水を放出します。最近の研究では、非常に冷たい プレートの場合には含水鉱物の一部が分解することなく地球深部まで水を運ぶ可能性も 示されています。また、水は必ずしもマントル内部を自由に移動できるわけではなく、 含水鉱物の分解で放出された水は、温度圧力環境によっては鉱物結晶の粒間に捕らわれたまま、 プレート運動とともにより深くへと沈み込んで行くというような状況も存在します。
 次に融点降下についてですが、一言でいえば「物質は一番安定な状態(自由エネルギー 最低の状態)をとろうとする」、ということが融点降下の原因です。高い圧力がかかる 地下深部の場合、エネルギー的安定に最も寄与するのは体積が縮小することです。 岩石が融解してマグマを作り、その中に水を溶解させたほうが、固体の岩石と水が別々に 存在するよりも全体としての体積が縮小するので、地球内部のある程度の深さまでは深度と ともに水と共存する岩石の融解開始温度は低下していきます。 (4)マグマの組成と由来
 温度、圧力、水の存在などによってマントル物質から生産されるマグマの組成は様々に 変化します。とはいっても、マントル物質から直接作ることができるのは玄武岩質マグマから 高Mg安山岩質マグマの範囲までで、日本列島のような島弧に噴出する、よりSiO2成分に 富むようなマグマを作ることはできません。マントルで生まれたマグマは地殻内部の マグマ溜りで、結晶分化したり周辺物質を取り込んだりしてマグマ自身が組成を変化させます。 また、周囲の地殻物質が低融点の場合には、周辺物質の融解で新たな別のマグマが生産されます。 こうしてできたマグマが、さらに上昇して火山体の地下数キロあたりの最終的なマグマ溜りに 貯えられて噴火に到るのです。したがって、マグマの成因をたどっていくとマントルにまで 行き着きますが、火山直下の浅部マグマ溜りを作っているマグマそのものの組成や由来は 様々です。

参考図書 「火山とプレートテクトニクス」     中村一明 著        東京大学出版会 「岩波講座地球惑星科学8 地殻の形成」 平朝彦他 著        岩波書店 「火山とマグマ」            兼岡一郎・井田喜明 編   東京大学出版会 (10/18/99)

安田 敦(東京大学・地震研究所)


Question #670
Q 火山帯のことで教えて頂きたいのですが。日本の活火山が86あると聞いたのですが、この86火山の千島火山帯、那須火山帯、富士火山帯など日本の7火山(子供の頃にこのような区分けを聞いた記憶があるのですが)に所属している山々を調べたいのですがどのような方法で調べればよいのかお教えください。世界の火山についてもどのくらいの数があるのかわかりませんが火山帯ごとの山々の区分けを調べたいと思っています。よろしくお願いいたします。 (06/15/00)

火山のこと何も知らないトラさん:無職:51

A
 最近では、日本の火山の分布を東日本火山帯と西日本火山帯の大きく2つに分ける ようになってきており、従来の千島、那須、鳥海、富士、乗鞍、白山、霧島火山帯な どの「火山帯」名はあまり使わなくなってきています。中学や高校の教科書からも消 えています。この理由は、それぞれの「火山帯」の境界が曖昧であること、マグマの 発生の仕組みから考えるとあまり意味のない分類であることと、年代測定や地質調査 が進んだ結果「火山帯」に属しない火山がいくつも出てきたことなどが上げられると 思います。
 質問の内容を調べられたいのであれば、百科事典や古い高校の地図帳などで調べる のが最もてっとり早い方法だと思います。火山帯の項を調べて下さい。世界のものも 同様に百科事典に掲載されているはずです。 (6/16/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #67
Q 地理では、"富士火山帯"とか"白山火山帯"のように、"火山帯"と呼ばれるものがあると習いましたが、日本にある7つの火山帯はどのような基準のもとでこのように分類されたのでしょうか。また、それぞれの火山帯の火山活動には、どのような特徴があるのでしょうか。

(3/13/98)

山屋さん:学生:21

A
 火山帯というのは,まず地表での火山の並びに基づいて定義されたもので, ちょうど空の星をその天空上の位置から星座に区切ったのと同じような,地理 的な記載の便宜上が始まりです.
 とはいえそれぞれの火山帯には,噴出するマグマに特徴が見られることがあ ります.特によく特徴がわかるのが,東北地方の那須火山帯と鳥海火山帯で す.那須火山帯の火山は,主に輝石という鉱物を含む安山岩を噴出しているの に,その日本海側にある鳥海火山帯はしばしば角閃石という鉱物を含む安山岩 が噴出します.また化学組成も鳥海火山帯のほうがナトリウムやカリウムなど のアルカリ成分が多いという特徴があります.また乗鞍火山帯では角閃石安山 岩がよく見られます.
 ところが必ずしも各火山帯が共通の特徴を持っているわけではないのもまた 事実なのです.例えば富士火山帯では北部に輝石安山岩,角閃石安山岩,南部 に輝石玄武岩,安山岩が噴出するほか,一部にはアルカリがかなり多いマグマ も活動しますし,大山火山帯や霧島火山帯も様々なマグマが噴出しています.


 このようにそれぞれの火山帯は,共通する特徴を持つこともありますが,必 ずそうかと言われると,そうでもありません.元が地理的な区分ですから仕方 がないのですが,それでも意外と重要な情報をもたらしてくれることあるので す.以下に簡単に紹介します.


 よく地図を見ると日本周辺の海溝に平行して火山帯が並んでいることに気付 かれると思います.いろいろなマグマが活動している富士火山帯でも,海溝側 の火山ではアルカリが少なく,海溝から遠い火山ほどアルカリが多いという, 那須・鳥海両火山帯で見られたのと同じ傾向が見られます.この傾向は千島火 山帯などでも同様なほか,世界的にも海洋プレートが沈みこむところの火山帯 で共通して見られます.このような海溝側から遠ざかる方向へのマグマの性質 の変化は沈みこみによる深発地震面の深さとよい関係があり,このことから沈 みこみが起きる場所の火山は,沈みこむ海洋プレートと関係するのではないか と考えられています.
 そこで海洋プレートの沈みこみと平行な複数の火山帯を同じ火山帯として呼 ぶ考えがあり,千島・那須・鳥海・乗鞍・富士各火山帯は太平洋プレートが関 係する東日本火山帯,大山・霧島火山帯はフィリピン海プレートが関係する西 日本火山帯と呼ぶことがあります. (3/17/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所)


Question #1826
Q 火山帯について

 以前には、那須火山帯などの言葉で表現されていた火山帯が、現在は使用されていないとのこと、東日本火山帯、西日本火山帯などの言葉で表現されていると聞きました。地図には以前の言葉で記載されています。真偽をお知らせください。また、もし変更になっている場合はなぜ変更になったのか、そして、東日本火山帯、西日本火山帯の概要をお知らせください。

 さらに、活火山、休火山、死火山などの言葉も使用されていないと聞きました。子供たちへの指導に困っていますが、現在使用してよい正確な言葉とその概要をお知らせください。

      (07/28/01)

栃木 やしおつつじ:教員:?

A
 日本列島とその周辺域の火山の分布は基本的には太平洋プレートやフィリピン海プ レートの沈みこみに伴なうマグマの生成に支配されています。前者による火山地帯を 東日本火山帯,後者のそれを西日本火山帯と呼びます。マグマの発生場所は主に沈み 込んだプレートの深さに影響されるため,火山は帯状の地域に分布します。以前は単 に地理的な並び方だけを根拠にして,細かく火山帯を分けていましたが,細分しなけ ればならない学術的な根拠がないので現在は使われなくなっています。一部の社会科 地図上に古い呼び名が残っているのは,自然科学の進展を充分に把握していないため と思われます。


 休火山・死火山という言葉が火山学分野で使われなくなってからもう30年以上経過 していますが,依然としてこの言葉が使われている書物があります。火山噴出物の調 査が進み、科学的な手法で噴火年代が定量的に測定されるようになってくると,現在 何も表面に活動的な現象が見られない火山でも将来噴火が起こる可能性があることが 明らかとなってきました。つまり防災対応の視点で考えたとき,今活発に火山活動を 繰り返しているか,今は活動を休んでいるかの識別は無意味であることがはっきりし たわけです.活火山の定義は国によって違います。日本では過去大よそ2000年以内に 噴火があったことが古文書の記録や噴出物の学術調査で判る火山と,そうでなくとも 活発に噴気活動を行っている火山を活火山としており,その数は86あります. 2000年という限定では活火山を見逃してしまう恐れがあることが判ってきたのでいく つかの国では過去1万年以内の噴火履歴のある火山を活火山とするようになってお り,日本でもまもなく過去1万年という定義に改定される見込です.活火山でない火 山は死火山とはいわずに「その他の火山」と呼ばれます。
 (8/07/01)

宇井忠英(北海道大学・大学院理学研究科・地球惑星科学専攻)