火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火をとらえる

地下水(層)


Question #398
Q ある本で読んだのですが、火山の下にある地下水には、「ラジエーター効果」があり、火山がものすごい勢いで噴火すると、ラジエーター効果が失われ、さらに、地下水がマグマと混ざり合い、水蒸気爆発が起こり、地下水層がからになり、地盤沈下・陥没が起こると知りました。そのメカニズムと、富士山付近の地下水はどのくらいあるか詳しく教えてください。 (02/10/00)

カズキ.H:中学生:15

A カズキ君,回答が遅くなってごめんなさい.質問の内容がかなり唐突で,私は最初意 味がきちんと理解できませんでした.いろいろ調べているうちに有珠山の異常・噴火 になってしまい,遅くなりました.言い訳はともかく,質問に答えましょう. まず,「ラジエーター効果」ですが,これは私達火山学者にとってかなり変な言い回 しです.ラジエーターと言うのは,ある場所で発生する熱を別の場所に発散させてそ の場所を冷やす役割を果たしているということですね?そういう意味ではラジエータ ー効果と言うのは間違いではありません.火山に限らず地下には多かれ少なかれ地下 水が広く分布しています.火山のずっと深いところにあるマグマからは,あるときは 少しずつ,またあるときは急に温度の高い火山ガスが分離して上昇してきます.そう すると地下水とぶつかって地下水の温度が上昇し,対流がおきたり自然の地下水の流 れで温泉となったりして,熱が地表に運ばれることになります.仮に,地下水がまっ たくない状態では,熱は全て熱伝導と,マグマから出てくる火山ガスだけで地表に運 ぶ必要がありますから,地下水がある場合よりもずっと効率悪く熱を地表に運ぶこと になります.という意味では「ラジエーター」と言えるのでしょうね.しかし,この 言い方はかなり変な言い方です.むしろ,「地下水は天然の熱交換機」と言ったほう がぴったりかもしれません. 次に,火山がものすごい勢いで噴火すると,ラジエーター効果が失われ,さらに,地 下水がマグマと混ざり合い,水蒸気爆発が起こるという点ですが,火山が噴火する場 合,つまり,マグマが地表に向かって上昇してきた場合,地下水に接触します.そう すると,上述のように地下水を温めて温水や水蒸気を作って熱を運ぶなどと悠長なこ とをやっていては大量の熱を運ぶことができなくなり,爆発が起こります.そうする とその部分は吹き飛ばされますから,それまでの地下水層はもちろん破壊され,「ラ ジエーター効果」もなくなるでしょう.ここで注意して欲しいのは,ラジエーター効 果が失われた結果として爆発が起きるのではないということです.通常の地下水の流 れでは熱輸送が追いつかなくなった結果,もっと効率よく熱を運ぶために爆発が起き るのです.決して放熱の効果が失われたわけではありません. 次に,地下水層がからになり、地盤沈下・陥没が起こるという点ですが,確かに爆発 の結果,爆発した部分からは水がなくなりますが,周囲からはまた水が集まってきま す.噴火の後,地盤沈下は確かに起こりますが,それは地下に蓄えられていたマグマ が外に出て行くからその分だけ地面がへこむのです.地下水云々はほとんど関係あり ません.現在噴火している有珠山や以前噴火した雲仙普賢岳でもこのような現象は観 測されており,火山学者は噴火の前に観測された山の膨らみと噴火が始まった後のへ こみを比べて,噴火がこれからどうなるだろうといったことを考えているわけです. 決して地下水層がからになったから沈下するわけではありません.おそらく沖積平野 などで地下水を汲み上げすぎて地盤が沈下する話と混同されたものと思われます. 最後に富士山の地下水ですが,これは私の専門ではありません.昔読んだ論文に,富 士山の地下水のことを述べた論文があり,そこには「富士山に降る雨の量は1年間に2 2億トンくらい(これは面積に年間降水量を掛けて計算する)で,富士山の周りから湧 いている水は毎秒55トン(つまり年に17億トン)くらいである」と述べられていまし た.ですからそれくらいなのでしょう.質問の範囲を越えますが,その論文の著者は ,「だから富士山に降った雨のほとんどは湧水になっている」と結んでいます. (5/01/00)

鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)