火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火をとらえる

地殻応力


Question #122
Q 9月3日の岩手県内陸北部の地震について地震調査研究推進本部地震調査委員会が公表した文書 には「発震機構は東西方向に 圧縮軸をもつ逆断層型」であり「岩手山火口列が東西方向に配置していることからこの地域に 推定される力の場と調和的」とありますが、「東西方向の圧縮軸」と「火口列が東西方向の配置」 との関連をわかりやすく解説していただければと思っております。 (9/8/98)

sugecha:会社員:39

A
 一般に火山の火口列の方向は地殻に作用する横方向からの圧力の向きと平行 に並ぶ場合が多いことが知られています。この現象は四角い粘土のブロックを 真上から見て、押しつける方向だけに板を当てて、板を押しつけると粘土はこ れと垂直な両側に逃げて、結局、押しつけた方向と平行な割れ目が入るという 現象に似ています。東北ではこれと同様に東西の方向から押しつけられていま すので、垂直な東西方向の割れ目ができやすいことになり、これが火口の配列 に反映されているということになります。ですから、火口配列が東西というこ とは横からの圧力が東西であることと調和的です。


 さて逆断層というのは、横からの圧力で斜めに片側の地盤が盛り上がるよう な動きをする断層です。こうした断層は横からの圧力の方向と垂直に伸びま す。地震は断層のすべりで起きますので、地震波の解析によってどんな力でず れ動いたかを知ることができます。その解析結果ではほぼ東西方向からの圧力 によって動いたことがわかりました。


 したがって、火口の配列と地震はともに地殻に東西からの力がかかっている ことを示しているので似ているというわけです。ただし、厳密には舌足らずの 表現で、最近、東北地方のような逆断層地帯の成層火山の側火口配列は、横ず れ断層や正断層地域の火山のようにきれいに配列しないことが分かってきまし たし、ここでは単に圧力と表現しましたが、2つの割れ目の応力の状態は異な っています。推進本部の地震調査委員会のコメントの主旨は、大勢としては主 圧縮応力軸と呼ぶ地殻にかかっている最大の圧縮の方向が、地震と火山、ある いは知られている活断層などから見てすべて同一の方向を示しているというこ とだと思います。 (9/11/98)

佐藤比呂志(東京大学・地震研究所)


Question #3409
Q 先ごろ、学会で(専門はぜんぜん違いますが)ハワイにいったついでに、キラウェアやマウナケア、ハレアカラ、ダイアモンドヘッド、とひととおり現地の火山を上ってきました。とても楽しかったです。
ところで、ハワイの火山、ってリフトゾーンがあって、そこからよく噴火すると聞きましたが、このリフトゾーンの形って、どの山も山頂付近で折れ曲がった独特な形をしていますね。これは何故なのでしょうか?

日本の火山では、圧力がかかるため、頂上を含む直線上でよく噴火する(富士山とか箱根とか)、という話はよく聞きますが、これについては、圧力がその向きにかかっているんだな、とかいうように分かりやすいのですが、
このように折れ曲がった線になっている理由がよくわかりません。
よろしくお願いします。 (11/16/02)

山彦:バイオ:30

A
 ハワイといえばホノルル・ワイキキビーチだったのですが,最近は火山とし てのハワイも知られるようになってきたようで,火山屋としてはうれしいで す.
 ハワイの説明の前に,簡単に側火山が特定の方向に多いわけを考えてみま す.マグマが地下から地殻を破壊しながら移動するとき,地殻にかかっている 応力の影響を受けて,もっとも割れやすい方向に割れます.地殻にかかってい る応力を3成分にわけて考えると,岩脈の伸びの方向は最大圧縮軸に平行で最 小圧縮軸(最大引張軸)に直交する方向になります.つまり岩脈の伸びの方向は 岩脈が貫入したときの最大圧縮軸の方向,または岩脈の伸びの方向に直交する 方向が最大引張軸だったことを示します.富士山や箱根,伊豆大島などの側火 山分布は,プレートの沈み込みに伴う北西-南東方向の広域圧縮応力が非常に 大きく,それに平行な方向に岩脈が入りやすいためです.
 ハワイの場合,プレート内のホットスポット火山ですから,広域の応力場は ほとんどありません.基本的にマグマ溜まりの圧力変動による応力と,火山体 にかかる重力による応力に支配されていると考えられています.中央火道の下 にあるマグマ溜まりの圧力が増大すると,地殻には引っ張り応力がかかりま す.そのため中央火道・マグマ溜まりから放射状岩脈が派生します.これだけ なら多くの中央火道を持つ火山と同じですが,ハワイの場合,海底から 8000-10000mも盛り上がっている山体が,自らの質量で滑り落ちようとしてい て,それがリフトゾーンをつくる大きな要因と考えられています.プウオオ火 口からの溶岩流が海に流れこんでいる場所に行かれたでしょうか?
 もし行かれたのであれば,キラウエア山頂からChain of Craters Roadを南 海岸まで急な崖を降りていったと思います.その崖がキラウエア火山の南側斜 面が滑り落ちている断層崖(ヒリナ断層系)です.キラウエア火山の南斜面は南 側に滑り落ちようとしているため,その方向に引っ張り応力がかかっているわ けです.キラウエア火山のリフトゾーンが山頂近くで湾曲しているのは,中央 火道がつくる応力(山頂に近いほど大きい)に支配される領域と南側へ引っ張る 応力が支配する領域の境界で湾曲すると考えられます.なお,ハワイでリフト ゾーンが発達する理由に,海底堆積物が滑り面として作用し,火山体が滑りや すいためだという説があります.機会があれば下記の論文を読まれてみてはい かがでしょうか.

中村一明(1980) なぜハワイ火山では長い rift zone が生ずるのか -厚い海 底堆積物の役割-.火山,第2集,25巻,p255-269.
 (11/28/02)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) --