火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

マグマとマグマ溜まり

マグマの粘性


Question #41
Q 化学組成が一定とした時、揮発性成分の含有量が高くなると、 何故マグマの粘性度が下がるのでしょうか。ただ、この事も、 気泡のサイズが大きい時に当てはまり、サイズが小さい時には 粘性度は逆に高まるということなのですが、その理由も教えて 頂きたいのですが。よろしくお願いします。 (9/16/97)

武藤君:学生:22

A 揮発性成分の含有量が高くなるとマグマ粘性度が下がるかどうかを考える場 合、その揮発成分がマグマに溶けているか、あるいは気泡として析出している かによって考え方がことなります。 (1)溶けている場合 マグマの粘性は、基本的にマグマ中の元素の化学結合の程度によってきまって います。マグマは液体ですので、マグマ中で元素は不規則な配置をしています が、ある程度元素同士が化学的に結合している状態にあります。化学結合の程 度は化学組成によって変化します。たとえば、珪酸が多くふくまれると相対的 に元素同士が強く結合してマグマの粘性があがります。揮発成分はマグマ中の 元素の結合を弱める性質があるため、揮発成分を多く溶かしこんでいるマグマ の粘性は小さい傾向があります。 (2)気泡がある場合 液体と気体の混合物の粘性というのは、その混合物に力(正確には応力)を加 えた時の変形のしやすさによって決まっています(それが粘性の定義)。言う までもなく、変形しやすいものほど粘性が小さいことになります。気泡のサイ ズが大きいときには気泡そのものが変形しやすいので、混合物全体としても変 形しやすくなり、実効的な粘性が低下します。しかし、気泡のサイズが小さく なると気泡は表面張力のために球形を保ったまま変形しないようになります。 この場合、混合物全体は、液体が変形する(気泡の間を流れる)ことによっ て、はじめて変形することができるようになります。このとき、気泡の存在は 液体の変形にとって邪魔な障害物でしかありません。したがって、混合物全体 の実効的な粘性は増加することになります。なお、混合物の実効的粘性につい ては、未だ研究の発展段階で、単純な公式があるわけではありません。ここで 説明したことは、定性的な概略であると理解してください。 (9/16/97)

小屋口剛博(東京大・地震研)


Question #52
Q 先日は質問に答えていただきありがとうございました。今、学校で火山の形について調べています。調べた結果、火山の形が違うのは溶岩の粘り気のせいだということが分かりました。 粘り気が強い火山は昭和新山の様に鐘状でごつごつしていて、粘り気が強くも弱くもない火山は富士山のような成層火山ができる、また粘り気が弱い火山はキラウエアのようなたて状火山ができるということが分かりました。 質問なのですが、その粘り気とは何かわかりません。何か違うものが中に入っているのですか? (10/30/97)

松本 卓:中学生:15

A 「粘り気」は、物質の流れにくさを表す「粘度」または「粘性」と呼ばれる物 理量を、やさしい言葉で言い換えたものです。身近な物質を例にとると、水 飴、練り歯磨き、マヨネーズ、トンカツソース、グリセリンなどは粘性が高 く、水や灯油などは粘性が低いわけです。粘性の単位は「パスカル秒」(Pa・ s)ですが、昔はポアズという単位がよく使われました。1Pa・sは10ポアズで す。水の粘性は0.01ポアズ、グリセリンは15ポアズ(いずれも温度20℃) です。そして溶岩の粘性は、ハワイや富士山のような「玄武岩」では100 −1000ポアズですが、昭和新山のような「安山岩」や「流紋岩」では10 00万〜1000億ポアズに達します。粘性というのは、つまり物体に力を 加えて変形させたときの、内部の摩擦力の大きさです。
 粘性は、同じ物質でも温度によって大きく変化します。例えば、水の粘性 は、0℃では0.018ポアズですが、100℃では0.003ポアズになります。一般に 玄武岩の溶岩は温度が高く(1100-1200℃)、安山岩や流紋岩の溶岩は温度が 低い(850-1000℃)ので、まず温度の効果があります。同じ溶岩でも、温度が 下がると、粘性が大きくなり、流れにくくなります。
 もう1つ重要なのは溶岩の成分の違いです。溶岩の主成分は珪素と酸素が結 合したシリカ(SiO2)という分子で、玄武岩にはSiO2が50%程度含まれ、安 山岩では60%、流紋岩では70%と多くなります。この分子は次々に結合 (重合)して糸のようになったり網状の構造を作る性質があるので、この分子 が増えると粘性が大きくなります。水に片栗粉を溶かすとトロッとしてくるよ うなものです。従って、同じ温度でも、玄武岩の溶岩より流紋岩の溶岩の方が 流れにくいのです。
 そのほか、溶岩の中に含まれる気体(火山ガス)や結晶の量など、いろいろ な要素が粘性に影響しますが、主なものは上に述べた通りです。 (11/1/97)

石渡 明(金沢大学理学部)


Question #120
Q 「SiO2の含有量が増えるとマグマの粘性が高くなる」 もう何年も当たり前のようにそう思ってきましたが,何でだろうとふと疑問に思い, 手近な本で調べてみましたが,よさそうな答えが見つかりません. なぜだか教えて下さい.

(9/3/98)

地質の学生:学生:21

A
 久城育夫・荒牧重雄編、岩波講座地球科学3、地球の物質科学II、 「火成岩とその生成」195ー206ページの「マグマの粘性」(久城育夫執 筆)を読むと「珪酸塩メルト(マグマ)においては、Si-O結合が基本構造をつ くっており、Si-O-Siの結合の程度によって粘性が変化するらしい。たとえ ば、SiO2のメルトに....金属酸化物を加えると、連続したSi-O-Siは金属 原子が途中に入ることによって切れたり、あるいは弱い金属結合が間に入る ことで、その付近の結合が弱くなったりする。その結果、粘性も低下すること になる」と書いてあります(カッコ内は石渡が追加)。


 要するに、Si以外の金属元素、特に鉄やマグネシウムを多量に含む玄武岩質 のSiO2の少ないメルトは、Si-O結合が金属元素に断ち切られているので粘性が 低いというわけです。これは、言葉を換えれば、SiO2分子の重合度が低くなっ ているとも言えます。たとえば、基礎的な有機化学で、メタン・エタン・プ ロパン・ブタン....と重合度が高くなるに従って、化合物の性質は気体か ら液体(石油)、半固体(ろう)へと変化し、液体の粘性も重合度が高い分子 ほど大きくなるのを思い出すと、よく理解できます。マグマ中ではSiO4四面体 が立体的な編み目構造をつくって大きな「SiO2分子」になっていると考えら れますが、この分子の大きさは、鉄やマグネシウムなどの邪魔者が少ない(つ まりSiO2が多い)ほど大きくなると考えれば、上で述べたアルカン類(パラフ ィン系炭化水素)との類似で理解しやすいと思います。但し、アルカン類で は、一般に重合度の大きいものほど融点が高いですが、マグマでは、SiO2の多 いものほど融点(結晶化温度)が低いので、このアナロジーには限界があり ます。


 詳しくは、上記の本を読んでください。 (9/4/98)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)


Question #184
Q 各マグマ(玄武岩マグマ・安山岩マグマ・流紋岩マグマ)の粘性度に関してお尋ねします。 マグマに揮発性成分(成分がマグマに溶けている場合)が多く解けている場合、そのマグマの粘性は 小さくなると本で読みました。又、上記の3種のマグマにおいては、シリカの含有量に応じ玄武岩> 安山岩>流紋岩の順で粘性が上がると習いました。ところが、この3種のマグマの揮発性成分含有量 も、粘性が高くなる順番と同様に、玄武岩>安山岩>流紋岩の順で上がるとこのHPにはありました。 以上から、揮発性成分含有量に応じて決定される粘性度よりシリカの含有量によって決まる粘性度の 方が強いと理解してよろしいのでしょうか?よろしくお願いします。

(1/29/99)

クマノミ:学生:19

A
 クマノミさんのご質問は,シリカ(SiO2)の含有量が高いほどマグマの粘性は 高い(ねばっこい)が,一方でマグマ中の揮発性成分が多ければ粘性は小さくなり, しかもシリカの含有量の多いマグマほど揮発性成分量は多いから,両者の作用はうち 消すように働くはずである.実際には両者の効果を比較すると前者のほうが大きいの ではないか,というご質問ですね.
 おおむね,そのようなご理解で良いだろうと思います.マグマはシリカを主成分と する化学組成をもつ液体ですが,シリカが非常に多いマグマでは,珪素の原子のまわ りを酸素原子4個が取り囲むSiO4四面体がお互いに酸素を共有しあって骨組みを 作ります.これが粘性を高くしています.マグマ中の他の元素の陽イオンはそのSi O4四面体をばらしていく役割を果たしますので,それらの多い,つまりシリカ含有 量の少ないマグマほど粘性は低くなります.一方,マグマ中の揮発性成分,主として 水の分子もやはりSiO4四面体をばらしていく役割を果たします.したがってシリ カ量の多い流紋岩質のマグマであっても水が多ければシリカ量の少ない玄武岩質マグ マと同程度にまで粘性は低くなることもありえます.しかし,そうなるのに必要なだ けの水の量は8-10%にもなり,地表に噴出したマグマの溶かし込みうる水の量はそん なに大量ではありませんので,結局,流紋岩質のマグマはたとえ玄武岩よりも多くの 水を含んでいたにしても粘性はそれよりも高いということになります.
 なお,マグマの温度も粘性に大きく影響し,高温であるほど粘性は下がります.一 般的にシリカの多いマグマほど温度は低いので,このことからもシリカの多いマグマ の粘性は高くなります. (2/25/99)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室)


Question #500
Q 中学校の理科の授業で、マグマのねばりけの違いで、噴火のしかたも違ってくることを学習しました。そこで、先生もわからなかった事なので、教えてください。
「マグマのねばりけは、何の違いで変わるのですか?」 (04/24/00)

稚沙:学生:15

A マグマの粘り気(粘性)については回答の52と184を参考にして下さい.そこに上手 くまとめられています.このページの下からたどって行って下さい.地中深くではマ グマの中にガス成分が溶け込んでいますが,地表に近づくとガスが分離して泡になろ うとします(ちょうどコーラ瓶の栓を抜いた時のように).マグマの粘り気によって ガス(気泡)の成長の仕方や外への逃げ出し方が大きく左右されます.粘り気の高い マグマの中で存分に成長できなかった泡が地上に来て,突然,破裂すれば激しい爆発 になるわけです. (5/02/00)

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Question #2451
Q 塾で理科の講師をしています。
理科は専門ではないので、まだ勉強中です。
私自身が疑問に思ったことは、子どもたちも疑問に思う可能性があるので質問します。
「大地の変化」の単元で、「マグマの粘り気が弱いと、火山噴出物の色は黒っぽい。
マグマの粘り気が強いと、火山噴出物の色は白っぽい。」とテキストに書いてありました。
どうしてマグマの粘性によって、火山噴出物の色が決まってくるのですか? (07/26/02)

塾講師:大学生:21

A
 マグマの粘り気と噴出物の色とは直接の因果関係はないので、質問の部分のテキス ト記述は正しくありません。「玄武岩には黒っぽいものが多く、薄く遠方まで流れた 溶岩(溶岩流)として見られることが多い。これに対して、流紋岩には白っぽいもの が多く、厚い溶岩の流れや盛り上がったドーム地形を作っていることが多い」という ことから生まれた誤解でしょう。例えば、厚みのある玄武岩溶岩はその中に細かい結 晶がたくさん含まれるために灰色をしています。黒曜石は流紋岩ですが黒っぽい色で す。この2例を見てもテキストの記述が正しくないことがおわかりいただけると思い ます。
 マグマの粘り気は液体部(メルト)の構造とそれに含まれる「固体や気泡部(結晶 や気泡)の量」に依存しています。メルトは結晶のように網目構造を持っており、そ の網目の変形の強さが「水の量」、「化学組成」、「温度」などによって大きく異な るために、粘り気が差が出てくるのです。水の量が多ければ粘り気は低下し、結晶の ような異物があれば粘り気は増加します。
 一方、噴出物の色は、溶岩の中に残っている気泡の量、結晶の量、ガラスの色など に依存します。これらの量は溶岩の冷え方や流れ方などに大きく依存します。ガラス の色は化学組成に依存します。鉄、マンガンなどがより多く含まれる玄武岩ガラスは 黒っぽくなります。
 テキストのように単純なものではないことがわかりましたか? (*一言メモ・・・「溶岩」とは地上やその付近にあるマグマやその固形物のことで す)
 (07/27/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --