火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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小中学生から多い質問

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

噴火現象と噴出物・岩石・鉱物

火砕流・水中火砕流・熱雲


Question #15
Q 火砕流が海にまでとどいたらどうなるのですか? (4/25/97)

田中(小):学生:24

A
 火砕流が海に達した場合,火砕流の密度によって異なった現象が起こりま す.密度が海水よりも大きな火砕流はそのまま海中に流れ込んでしまいます し,密度が海水より小さな火砕流は海面の上を走り続けるということが起こり ます.雲仙普賢岳で見られたブロック・アンド・アッシュフロー(blockand ashflow)と呼ばれるような火砕流が海に達した場合にはそのまま海中に流入 してしまいますが,カルデラを造るときに発生するような大規模な火砕流は海 面上を走り続けると考えられます.海面上を走る火砕流は,地表との摩擦がな いことに加え,海面から供給される水蒸気によって流動化が保持されるので陸 上を流走するよりも遠くまで到達します.たとえば,阿蘇火山から約9万年前 噴出した阿蘇-4火砕流は瀬戸内海をこえて山口県でも見つかっています.
 火砕流が海中に流入すると,そこで水蒸気爆発が起こることがあります.そ のような例はニュージーランドや1929年の北海道駒ヶ岳の噴火で知られていま す.

井村隆介(鹿児島大学理学部)


Question #126
Q 火砕流とベースサージの流れの形態と堆積物の違いを詳しく知りたいです。お願いします。 (9/17/98)

火山の勉強中の大学生:大学生:19歳

A
 火砕流は,高温の物質を主体とする比較的高密度な流れです.それに対し て,火砕サージは,比較的低密度な流れです.(火砕サージには,マグマと水 が反応して爆発的に発生するベースサージや,火砕流に伴って発生するアッシ ュクラウドサージなどがあります)火砕流には,長崎県の雲仙の火砕流のよう に,溶岩ドームの崩落で発生する数千〜100万立方m程度の比較的発泡度の低 い岩石を主体とする小規模な火砕流から,九州南部の入戸火砕流のように, 10-100立方km程度の発泡のよい軽石を主体とする大規模な火砕流まで存在しま す.
 火砕流堆積物の特徴は,数ミクロン程度の細かい粒子〜数10cm(ときには数 m)以下の岩片や軽石を含んでいて,大変淘汰が悪いことです.火砕流堆積物 は,高密度な状態から急速に堆積していくので淘汰が悪くなります.1枚の堆 積物の厚さが数10cm〜数10mと比較的厚い特徴があります.火砕流堆積物の 基底部には岩片が逆級化したゾーンが存在することがあります.また,軽石を 含む火砕流堆積物の場合は,1枚の堆積物の上部に大きめの軽石が集まってい ることがよくあります.
 一方,火砕サージ堆積物の場合は,火砕流堆積物に比べて数ミクロン程度の 細かい粒子の割合が少なく,比較的淘汰がよい傾向があります.しかし,空中 から降ってきた降下堆積物よりも,淘汰は悪い傾向があります.火砕サージは 乱流状態の低密度な流れなので,粒子が基底部に集まってきて,地面との間を 跳びはねたり,転がったりしながら堆積します.そのため,堆積物には,下 の層を削り込んだり(斜交層理や斜交ラミナ),一つの層の厚さが一定でなく 変化しているなどの構造がみられます.火砕流堆積物に比べて,1枚の層の厚 さが数cm〜数10cmと比較的薄い傾向があります.また,ベースサージの場合 は,水が関与しているので堆積物が湿っています.そのため,比較的急な斜面 に堆積していたり,給源から直接飛んできた大きめの岩片がめり込んでいる (ボムサグ),比較的細粒の層には細粒な粒子が空中で集まってできた数cm以 下の火山豆石が含まれている等が特徴的に見られます. (9/21/98)

宝田晋治(地質調査所・北海道支所)


Question #185
Q @水中火砕流について、地学事典では水底噴火の場合に熱の保持がありうるとか、ありえないとか掲載されているのですが、実際の話、水底噴火による水中火砕流という噴火はあるのですか? あるとすれば、その堆積物の特徴を教えて下さい。同じように水中軽石流についても、水底での噴火様式と堆積物の特徴を教えて下さい。

A数年前より、防災上の観点から水中火山岩が注目されております。 水中火山岩といえば火山屋さんより地質屋さんの研究が多いような印象を受けます。また、水中火山岩の分類について未だ判然としない点もあると思います。 火山屋さんの中には、水中火山岩について噴火様式→堆積様式をより明確に認識している方々も居られると思います。 不明瞭な質問かもしれませんが、堆積構造より火山噴火の観点から見た、水中火山岩の分類を行っている研究などがありましたら是非教えて下さい。 また火山学会として水中火山岩の位置づけを教えて下さい。 (1/29/99)

しみず:建設コンサルタント:28

A 日本のグリーンタフ地域には凝灰角礫岩や火山角礫凝灰岩などの岩相が非常に多く 発達しています。そのなかには成因的に水中火砕流と考えて良いものが多く含まれ ています。

水中火砕流は連続性がよく鍵層として有効で、特に軽石流は連続性がよいようで す。南部フォッサマグナでは富士川層群の和平凝灰岩層や丹沢の大沢凝灰岩層など が有名です。繊維状発泡した軽石が変質してあざやかなグリーンのパッチを持って いることが多いから明瞭です。

和平凝灰岩層を記載したFiske and Matsuda(1968)は大規模水中軽石流の特徴と して二重級化構造を持つことを指摘しています。まず、単層内部で、上方に細粒化 する級化構造をもち、粒子の構成でも上方ほど軽石が多く下部ほど岩片が多いとい う特徴があります。さらに、一つの水中火砕流は多数の単層群から構成され、その 中でも全体として上方細粒化と上方薄層化がみられるという特徴です。このような 特徴は、水底で発生した密度流の特徴とされています。

この中でも、上部ユニットのの細粒部分は、ガラスの粒子が多いため石器状に割れ ることが特徴的であり、いくつかの遺跡では石器として加工されたものも発掘され ています。

また、粗粒部分は節理があまり発達しないために非常に大きなブロックとなって崩 壊することが多いようです。

これらの火砕堆積物の分類を他の火山噴出物との関連で系統的に行ったのは中村一 明先生で、このような水中火砕流はW-W-W型と分類されているものに相当すしま す。水中噴火-水中運搬-水中堆積というわけです。

このような水中火山岩の研究は最近では北海道地下資源調査所の山岸先生が精力的 に研究されています。 (2/13/99)

千葉達朗(アジア航測(株)防災部)


Question #390
Q 火砕流が実際に起こったのは、島原の普賢岳が最初ですか?それとも、それ以前に火砕流による被害が起こった事例があるのでしょうか(外国を含む)。
「火砕流」は学術上の言葉であったものが実際の現象が起きて証明されたのはいつからなのですか?昔の文献には「熱雲」の表現が多いようですが。 (01/28/00)

熊本に単身赴任中のお父さん:公務員:47

A
 カリブ海西インド諸島にあるマルチニーク島のプレー火山で,1902年に火砕流噴火 が起こりました.これが火山学的に目撃された最初の火砕流です.この時は,プレー 火山の麓街サンピエールにいた住人約3万人のほとんどが一瞬のうちに犠牲になりま した.これを調査したフランスの研究者ラクロアが,この火砕流に対して「熱雲(英 語ではGlowing cloud)」という言葉を用いました.その後,あちこちで火砕流の発 生が目撃され,比較的規模の大きなものがアラスカのカトマイ火山(1912年)や北海 道駒ヶ岳(1929年)で起こりました.後者は「軽石流」とよばれました.歴史的記録 でさかのぼると,西暦79年のイタリアのベスビアス火山の噴火で,火砕流によってロ ーマの都市ポンペイがすっかり埋もれてしまった出来事があります.厚い堆積物を取 り除いて出現したポンペイの街並みとともに,火砕流による犠牲者や犬の石膏型がよ く科学や歴史の教科書に出てきます.
 英語の「火砕流」という言葉(pyroclastic flow)は1940年頃から使われ始めまし たが,現在の火砕流の意味で使われ始めたのは1950年代の終わり頃で,日本の火山学 者が定義しなおしたものです.日本語の火砕流が使われ始めたのは1960年代になって からです.この定義に従うと,熱雲と軽石流は火砕流のうちで,それぞれ,小規模な ものと大規模なものに当たります.
 普賢岳噴火で起こった火砕流はまさに熱雲でした.日本語の「火砕流」という言葉 の意味が一般の人にはつかみにくいので,普賢岳噴火の際に何度も問題になりました .地元の人が誤解して「火石流」と使っていたのには大変考えさせられました. (1/29/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #771
Q 阿蘇のカルデラを形成したときの火砕流は島原半島や宇部市付近まで到達していると聞きましたがこれからもこんなに大きな火砕流が発生する可能性はあるのでしょうか。また、今後これほどの火砕流が発生しそうな火山はどこの火山でしょうか (07/23/00)

テツヤ:高校生:15

A
 海を越えて島原半島や山口県まで到達した火砕流とは、約9万年前に噴出した阿蘇 -4火砕流堆積物のことですね。今後も、これほどの規模の火砕流が発生するかどう か、すなわち阿蘇-5火砕流のイベントがあるかどうかは、現在の火山学では全く分か らないと言った方がよいでしょう。かつての日本列島では、このような巨大噴火は、 九州、北海道、東北地方で比較的多く見られました。しかし、近い将来、これほどの 火砕流が発生しそうな火山を特定することは、できません。数万年前から数十万年前 までの火山噴出物の研究から知りえた知識をもとに、未来の噴火を予想することは、 大変に難しいのが現状です。 (9/28/00)

鎌田浩毅 (京都大学・総合人間学部・地球科学分野)


Question #5469
Q いつもこのコーナーを楽しみにしております。

 私は、鹿児島県に住んでいるのですが、県外の友人に「シラス台地のシラスは、どうしてカタカナなのか?」と聞かれました。インターネットなどで語源を調べた所、日本語の「白洲」から付けられたと書かれていました。「シラス」の語源となぜカタカナ標記なのかを教えて下さい。お忙しい所、すみませんが、よろしくお願い致します。 (04/06/04)

まゆ:社会人:27

A
 シラス台地の「シラス」は,白い砂を指す南九州の方言です(白い砂を「シラス」と呼ぶところは実は南九州だけではなく,日本中にあります).火山県鹿 児島では白い砂の大部分が非溶結(ひようけつ)の火砕流堆積物だったわけで,その火砕流堆積物がつくる台地をシラス台地と呼んでいます.
 日本語に由来するのだから,ひらがな表記でいいように思われるかも知れませんが,学術的に「もの」を記述する場合にはカタカナを使うことが多いようで す.たとえば鳥の図鑑を見てみて下さい.すずめではなくスズメと書いてあるでしょう.
 さて,この前の文章で,「すずめ」を認識して読みやすいのはひらがな表記ですか?カタカナ表記ですか?そういったことから,学術的に「もの」を書くと きにはカタカナ表記がなされることが多いのだと思います.
 「シラス」と「しらす」の表記に関するお話が http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/shirasu/index.html にありますので見てみて下さい.
 (04/09/04)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #5462
Q
 初めて書き込みさせていただきます。宮崎県の小林市に住んでますので、小説『死都日本』を読んで以来、周りの地形を見るようになりました。

 そこで、お尋ねしたいことがたくさんあるのですが、とりあえず幾つか質問させていただければと思います。


 人吉盆地は、火山地形ではないようですが、どうやって出来たのでしょう。過去のお答えを拝見していると、「鹿児島地溝」というものらしいですが、それは霧島から国分にかけて緩斜面が存在し姶良カルデラの壁が判らないのと同じなのですか? とすると、小説のような大爆発があり、何らかの要因が重なると、霧島も鹿児島湾と繋がったりするんでしょうか。運がよければ(?)かなり後の時代、人吉まで海になったりするとか。考えすぎですか。


 姶良と阿多の両カルデラの間は、火山に起因したものではないということですが、それでも大隈半島の高隈山地が中央火口丘で……、と考えると面白いのですが、高隈は火山地形なのでしょうか?


 小説で、鹿児島湾を失踪する火砕流のシーンがありましたが、あんな事件があった場合、その後鹿児島湾はどうなってしまうのでしょう。イメージ的には軽石で姶良カルデラが埋まってしまうように思えますが、いずれ外洋に流れ出し、錦江湾は元の姿を保つものなんでしょうか。


 小説に則した質問になってしまい、大変申し訳ありません。 (03/14/04)

小林市のにわか火山ファン:社会人:32

A
 「死都日本」は,火山学的にみてもよくできた小説です.あの小説がきっかけで,地形をよくみるようになったというのはすごいですね.作者の石黒さんも 喜んでいらっしゃると思います.さて,ご質問について一緒に考えてみましょう.
 人吉盆地は,鹿児島地溝の北の終点と考えられていますが,その成因についてはよくわかっていないところがあります.人吉盆地に堆積している地層は,古 いものほど大きく傾いていますから,この盆地が激しい地殻変動を受けながら形づくられてきたことは間違いありません.人吉盆地の南東縁には活断層の存在 も指摘されています.これらのことと人吉盆地内で火山活動があったという証拠がないということから,人吉盆地は,断層運動によって相対的に落ち込んでで きた盆地(構造性盆地)であると考えられています.しかし,どうしてあそこに構造性盆地があるのかはよくわかっていないのです.宮崎県の都城盆地も人吉 盆地と同様に成因がよくわかっていない盆地です.
 人吉盆地よりも南にある,加久藤盆地の中,すなわち加久藤カルデラの中は数100mに達する厚い堆積物で埋積されていますが,いずれも湖に堆積した地 層で,海が入ってきたという証拠はみつかっていません.加久藤盆地は加久藤火砕流の噴出以降,数十万年以上にわたって鹿児島湾と通じたことがなかったよ うなので,これから先もそれくらいの期間は海が深く入ってくることはないでしょう.
 大隅半島の高隈山は大箆柄岳を主峰としたいくつかの山の総称で,日本のブナ林の南限として知られています.高隈山系は,今から1200万年前くらいに できた花崗岩とその熱に焼かれて堅くなった堆積岩でできています.熱で堅くなってしまった堆積岩をホルンフェルスといいます(それぞれの岩石がどんなも のかは,お近くの図書館で地学事典などを見て調べてみて下さい).大箆柄岳などのピークのほとんどは堅いホルンフェルスが浸食に抵抗して残ったもので す.ですから,高隈山は火山が作った地形とは言えません.鹿児島地溝の形成に関与した可能性が指摘されている最も古い火山噴出物の年代は300万年前く らいと考えられています.
 大規模火砕流の後の鹿児島湾については難しい質問ですね.専門家でも意見が分かれるかも知れません.気候変動に伴って海水準も変化していますから答え は単純ではありません(たとえば,入戸火砕流が噴出したころは今よりも海面が100m以上下がっていたことが知られています.単純に100m海面を下げ ると鹿児島湾はかなり浅くなり,一部は干上がって外洋と分離されます)が,現在の状況で大規模火砕流が鹿児島湾を走ったとすると,その後はどうなってい るでしょうか?
 私自身は水面を軽石で覆い尽くされた,やや浅くなった鹿児島湾が残っていると思います.陸上部は厚い火砕流堆積物で埋め尽くされますが,海域部では, 摩擦が少ないために,火砕流の大部分は駆け抜けてしまうと思います.とはいえ一部は海中に入り,堆積すると思われます.海中に入った火砕流の細粒部分 は,そのまま海底に沈みますが,軽石はプカプカ浮いて海面を覆い尽くすでしょう.鹿児島湾で行われた音波探査などでは,鹿児島湾の底に古い時代の大規模 火砕流堆積物が何層もあることがわかっています.また,鹿児島湾の北岸,国分市や姶良町周辺では,古い時代の鹿児島湾に堆積したと考えられる水中堆積の 火砕流堆積物を観察することができます.大規模火砕流といえども,そう簡単に海を埋め立てることはできないようです.そう考えると,あっという間に埋め 立て地を作ってしまう人間はすごいですね.
 (03/29/04)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)