火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

火山のできる場所と地球の大構造

沈み込み(帯)・島弧


Question #12
Q 日本の火山は他の国の火山に比べて溶岩を出す頻度が少ないように思われます その分水蒸気爆発が多いような気もします  又 他の国の火山を見なすと富士山のように形のきれいな成層火山が多く見られますが日本の火山はどちらかといえば二重 三重式火山や 山体の崩壊 及び浸食された火山 溶岩円頂丘が多いようにも思われますが噴火の様式 山体等から考えますと一部の火山を除いて日本の火山は活動があまり活発ではないのでしょうか? 又 年代的に古い火山が多いのでしょうか? 全くの素人ですので質問に間違っている点があるかもしれませんが教えていただければありがたく思います (3/9/97)

火山に興味のある兵庫の会社員より:会社員:35

A
 ご質問ありがとうございます.


 日本の火山は「沈み込み帯の火山」でして,割れ目から大量の溶岩を吹き出 すハワイやアイスランドの火山とは性質が違います.しかし,数百年前までさ かのぼれば,日本の活火山のほとんどが大きな噴火を起こし,溶岩流も出して います.桜島や浅間山,伊豆大島といった日本の代表的な火山の麓には,生々 しい溶岩流の跡が残されています.


 日本の火山はほとんどが成層火山です.富士山のようなきれいな火山も,北 海道駒ケ岳のような山頂部が崩壊した火山も基本的には同じようにできた成層 火山です.形がきれいな成層火山は,富士山のほかにも日本にはたくさんあり ます.山頂部が崩壊した火山はもう盛りを過ぎた火山だということもありませ ん.これらの火山が数百年から数千年かけてきれいな成層火山になる可能性だ って十分にあります.


 確かに,ここ数年にかぎれば日本ではそれほど大きな噴火は起きていませ ん.昨年の北海道駒ケ岳や雌阿寒岳の噴火は本当に小さいものでした.でも, 数百年前の活動でも,火山の一生からみれば「最近」の出来事です.日本には 若い火山がたくさんあり,現在も活発に活動していると思っていてください.


 ご不明な点があれば,またご質問ください.

西村裕一(北大理学部有珠火山観測所)


Question #11
Q アンデス山脈の火山や南極大陸の火山はどのくらいあり、また研究は進んでいますか。 (2/17/97)

単なる学生:学生:21

A
 地球上の火山は、3つの種類の場所にできます.1)島弧海溝系,2)ホット スポット,3)中央海嶺.ご質問のアンデス山脈の火山は1)の島弧海溝系 に,南極大陸の火山は2)のホットスポットのものと1)の島弧海溝系のものが あります.アンデス山脈でよくみられる火山岩はアンデサイト(andesite)と よばれます.同じ島弧海溝系に属する日本の火山にはにもそれと同じ種類の岩 石が多くありますが日本語の「安山岩」は、漢字表記をそのまま使用したもの です.
 このアンデス山脈に沿って多数の火山がありますが,その中でも有名な活火 山をいくつかあげると,(1)コトパクシ,(2)ネバドデルルイス,(3) ミスティ,(4)ビジャリカなどです.このうち(2)のコロンビアのネバド デルルイス火山は1985年の噴火の時に,大規模な泥流が発生,麓にあったアル メロの町を襲い,2万5千人もの人名が奪われました.この火山については,そ の後,詳しい研究が行われ,山頂の氷河の上を高温の火砕流が流れ,そのため に1時に氷が融け,最高40mの高さに達する泥流が発生したとされています.
 南極の基地の中でも有名なアメリカのマクマード基地やニュージーランドの スコット基地がある,ロス島という東西100kmくらいの火山島の中に,エレバス 火山という有名な活火山があります.基底部の直径が30kmていどの成層火山で す.最近では1972年にストロンボリ式の噴火をしています.直径500mの山頂火 口の底には絶えず灼熱のマグマが湛えられた溶岩湖があるのが有名です.火山 周辺は高い地熱のために雪や氷のない砂礫地(ドライバレー)となっていま す.このロス島周辺以外にはあたらしい火山はないと思います.古くは1814年 にJamesRossらによって,20世紀になってScottらによって観察されています. 日本の研究者も頻繁に訪れており,毎年のように学会に報告があります.な お,南極半島には島弧海溝系の種類の火山がいくつかあります.その中でのデ セプション火山は最近も活動を繰り返しており,島にあったチリの基地が泥流 の被害を受け放棄されました.

千葉達朗(アジア航測株式会社)


Question #101
Q 国内規模、あるいは世界規模で、火山活動の活発な時期とそうでない時期があると思うのですが、具体的にそれを示すような資料がありましたら、教えていただきたいと思います。また、その中で現在の火山活動の位置づけ(つまり、現在は比較的活動的な時期なのかそうでないのか)を教えていただきたいのですが。 過去に近隣の火山がほぼ同時期に噴火するようなパターンが知られているようでしたら、具体的に教えてください。 (7/11/98)

鈴木 邦彦:高校教員:36

A
 ご質問の内容は2つありますが,まず,火山活動の時代的な消長についてお 答えします.
 世界の火山活動についてまとめた,Smithonian Institution監修の Volcano of the World(second edition) Geoscience Press, Tucson, AZ, 1994, ISBN 0-945005-12-1 が参考になると思います.それによると,地球全体のマグマの年間平均噴出量 は約4立方キロメートルで,その4分の3程度は,海洋中央海嶺で噴出してい ます.しかし,海洋中央海嶺における活動度の消長については,なにぶん海の 底のことでありよく判りません.一方,日本も含めてプレートの沈み込み帯の 火山の多くは陸上火山を形成し,その活動は人によって観察されてきました. またハワイ島などの海山(ホットスポット)の火山活動も観察されています. これらの観察されている火山の活動度についてみると,その年々に活動したと 報告された火山の数自体は歴史的に急増しているのですが,これは人類文明の 進展にほぼ対応していて,しかも社会的事情で報告数は左右されているので活 動度の消長といえるものがあるのかどうかよく判らないといわざるをえませ ん.ただし,0.1立方キロメートルを越すような量の噴出物を伴う比較的大規 模な噴火は見逃されていないと考えれば,その数は19世紀以降世界中で年間 に0回から4回の回数を数えていて,その回数の時代的変化にはっきりした規 則性は見られません.なお,個々の火山についてみればその火山固有の周期性 が見られることはあります.日本列島で第四紀に噴出した噴出物の量と年代の 関係をまとめるプロジェクトは現在進行中です.
 ところで,以上は平常時における話ですが,時折,巨大な噴火が起こること があります.例えば鹿児島県の姶良カルデラでは2万5千年前に450立方キ ロメートルを越す噴出物を伴う巨大な噴火が起こりました.この規模の噴火は 日本列島だけでも過去10万年間に約10回という割合で起こっています.ま た,洪水玄武岩と呼ばれる巨大な溶岩が噴出することもあります.例えば北米 西岸のコロンビア台地では1700〜1500万年位前に総量15万立方キロ メートルを越すような膨大な玄武岩が噴出しました.中生代末のデカン溶岩台 地などもそのひとつです.このような大規模な噴火のない現在は比較的平穏な 時代というべきかもしれません.
 もうひとつの質問,近隣の火山が同時期に噴火する例としては以下のものが あります.小アンチルス諸島のプレー火山とセントヴィンセント火山は1日違 いで噴火し,その5ヶ月後にはグアテマラのサンタマリア火山が噴火しまし た.日本では,1983年の三宅島,86年の伊豆大島,89年の伊東沖の噴 火が連続した例があります.
 なお,以下の本も参考となります. 火山噴火と災害,宇井忠英 編,東京大学出版会 1997年発行、A5版219ペー ジ、定価3700円(税別) (7/15/98)

三宅康幸(信州大学・理学部)


Question #289
Q
 火山前線と火山分布および地下のマグマ溜に関してご教示ください。(1)火山の山体の地下にはマグマ溜が存在すると思われますが、日本列島を縦断するこの火山前線の地下にはどのような状態(形、大きさ、深さ等の形状)でマグマ溜が存在していると考えられているでしょうか。(2)火山前線は深さ120〜130kmの深発地震面にほぼ一致しているようですが、この辺りで初めてマグマが生成され、また、更に深くなるとマグマが精製されなくなると考えてよいでしょうか。(3)プレ−トがマントル中に持ち込む水の量とどのような状態で持ち込むのか。そして水が融点を下げるとのことですが、どのようなメカニズムで融点が下がるのでしょうか。 (4)マントルで生成されたマグマが上昇してきて、地下数kmのマグマ溜に溜まると聞きましたが、日本列島の地下のマグマ溜に流入してくるマグマは全て玄武岩質マグマなのでしょうか? それとも、マントル内ではなく地殻内部でマグマがつくられるのでしょうか。(1)から単純に推定するとマントル内でマグマが生成されている思われますが。 (10/9/99)

Jun:教員:51

A 回答に窮する難しい質問ですね。マグマ溜りの存在形態や火山前線の成因については 火山研究者の間でも議論となっている大きな問題です。より詳しく知りたい場合には 末尾に示す参考図書などをご参照下さい。これらの図書はふつうの図書館などにも よく置かれています。 (1)マグマ溜りの形態について
 現在、火山の下には複数のマグマ溜りがあると考えられています。一回の火山の 活動期に限っても、火山活動の推移や噴出物質の組成変化あるいは地殻変動の観測など から、幾つかのマグマ溜りの存在が示唆される場合があります。一つの火山が何回もの 噴火で作られる場合にはなおさら、深さも大きさも異なる幾つものマグマ溜りが関与 したと考えられています。地震波による物理探査では、火山体の地下数kmあたりに マグマ溜りであると思われる複数の独立した地震波反射面が見える場合や、地震波の 吸収が大きいことからマグマの存在を予想させる巨大な領域がより深部に発見されたり しています。マグマ溜り体積としては、噴火前のマグマの圧力による地殻変動などの データや、火山噴出物そのものの体積から、小さいものでは数立方キロメートル以下 から大きなものでは数千立方キロメートル以上まで、予想されているマグマ溜りの 大きさも様々です。
 マグマ溜りが形成される可能性のある場は、マグマの密度と周囲の物質の密度が 釣り合う場所、周囲の物質の変形速度が遅いのでマグマの上昇が阻害され結果的に マグマが滞留する場所、という2つが考えられます。マントルで生産された玄武岩質 マグマは周囲の固体マントル物質よりは軽いので上昇します。マントルと地殻の境界では、 マグマと周辺物質との密度差による浮力が低下することや周辺物質の流動しにくさのため、 一時的にマグマの滞留がおこることが予想されます。ここがマグマ溜りの最初の候補地です。 マグマ溜り形成の次の候補地は、玄武岩質マグマが周囲の固体物質と密度的に釣り合うこと ができる下部地殻から上部地殻の下部あたりです。ここに停滞したマグマは、周辺物質を 取り込んだり結晶分化をしたり、あるいはマグマ中にとけ込んでいた揮発性物質の発泡に よって密度が低下するので、さらにより地殻浅所の密度の釣り合う深度に向けて上昇し、 さらに別のマグマ溜りを形成すると考えられています。つまり深さの点では、地殻ー マントル境界から火山の地下数kmあたりまでの様々な深度にマグマ溜りは存在する 可能性がありうるわけです。マグマ溜りの形状については、周囲の物質の強度もおおいに 影響すると考えられます。周囲の物質が流動性をもった地殻下部では、マグマは周囲の 物質を押しのけてある程度まとまった空間を確保することが可能かもしれません。一方、 地殻の浅い部分ではマグマ溜りの周囲の物質は流動せずに割れるようになります。 このため、上昇するマグマは周囲の岩盤を割りながら移動するので、マグマ溜りの形状も、 1枚の板状やある空間に板状のものがたくさん集まったような形態になると思われます。 長い時間を経過して割れた周囲の岩盤を溶かしてしまえば、地殻の浅い部分でもある程度の 塊としてのマグマ溜りが存在できるでしょう。 (2)深発地震面とマグマ生産の関係
 プレートの年代が非常に若くて薄い(冷えていない)場合を除いて、火山前線に 対応するような120〜130kmの深発地震面あたりの温度は、プレート表面やそれに 接するマントル物質を溶融させるほど高温ではないと考えられています。普通の沈み込み帯の 場合には、プレートから放出された水がプレート表面よりかなり離れたマントル内の もっと高温の部分に到達した段階で初めて、マグマの生産が行われると考えられています。 深発地震面はプレートから水が放出される場に対応している可能性がありますが、 脱水過程と地震発生との関連は諸説があり必ずしも決定的ではありません。 (3)水のもちこまれかた、融点降下。
 水は海洋底堆積物の粒間に保持されたりあるいは含水鉱物の形で、プレートの沈み込みと ともにマントル内に持ち込まれます。このうち前者は沈み込みのかなり早い段階で圧密に よって大部分の放出が完了してしまうので、100kmを越えるような深度への水の持ち込みの ほとんどは含水鉱物が担っていると考えられています。含水鉱物はその組成・種類によって 固有の様々な温度圧力条件下で分解して水を放出します。最近の研究では、非常に冷たい プレートの場合には含水鉱物の一部が分解することなく地球深部まで水を運ぶ可能性も 示されています。また、水は必ずしもマントル内部を自由に移動できるわけではなく、 含水鉱物の分解で放出された水は、温度圧力環境によっては鉱物結晶の粒間に捕らわれたまま、 プレート運動とともにより深くへと沈み込んで行くというような状況も存在します。
 次に融点降下についてですが、一言でいえば「物質は一番安定な状態(自由エネルギー 最低の状態)をとろうとする」、ということが融点降下の原因です。高い圧力がかかる 地下深部の場合、エネルギー的安定に最も寄与するのは体積が縮小することです。 岩石が融解してマグマを作り、その中に水を溶解させたほうが、固体の岩石と水が別々に 存在するよりも全体としての体積が縮小するので、地球内部のある程度の深さまでは深度と ともに水と共存する岩石の融解開始温度は低下していきます。 (4)マグマの組成と由来
 温度、圧力、水の存在などによってマントル物質から生産されるマグマの組成は様々に 変化します。とはいっても、マントル物質から直接作ることができるのは玄武岩質マグマから 高Mg安山岩質マグマの範囲までで、日本列島のような島弧に噴出する、よりSiO2成分に 富むようなマグマを作ることはできません。マントルで生まれたマグマは地殻内部の マグマ溜りで、結晶分化したり周辺物質を取り込んだりしてマグマ自身が組成を変化させます。 また、周囲の地殻物質が低融点の場合には、周辺物質の融解で新たな別のマグマが生産されます。 こうしてできたマグマが、さらに上昇して火山体の地下数キロあたりの最終的なマグマ溜りに 貯えられて噴火に到るのです。したがって、マグマの成因をたどっていくとマントルにまで 行き着きますが、火山直下の浅部マグマ溜りを作っているマグマそのものの組成や由来は 様々です。

参考図書 「火山とプレートテクトニクス」     中村一明 著        東京大学出版会 「岩波講座地球惑星科学8 地殻の形成」 平朝彦他 著        岩波書店 「火山とマグマ」            兼岡一郎・井田喜明 編   東京大学出版会 (10/18/99)

安田 敦(東京大学・地震研究所)


Question #387
Q 私は札幌に住んでいる中学3年生です。
今は受験勉強でとても忙しいですが、火山にとても興味を持っています。

学校で、日本は沢山のプレートが重なり合っていると教わりました。
特に太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈みこむことによって
太平洋側では、地震や火山が発生すると勉強しました。
さらに、学校の先生は昔は北海道の真中辺りに、北米プレートとユーラシアプレートの
境界があったけれど、今は日本海のほうにあるんだよ。とも言っていました。
もし、本当にそうなら、プレートが沈み込んで、日本海でも火山ができるんじゃないかと思うんですが、どうなのでしょうか。
奥尻島の地震はプレートの沈み込みと関係あるのでしょうか? (01/25/00)

めざせ北高!:中学生:15歳

A 「めざせ北高!」さん,こんにちは! 受験勉強は順調にお進みでしょうか?

さて,御質問の件です。 プレートはある程度の深さ(110kmくらい)まで潜り込まないと,その上に火山はで きません。日本海を作っているプレートは,地質学的な感覚では「ついこの間」沈み 込み始めたばかりです。このまま順調に沈み込みが進行したとしても,それによる火 山ができるまでは,あと1000万年〜2000万年はかかるでしょう。

> 奥尻島の地震はプレートの沈み込みと関係あるのでしょうか? そのとおりです!! (1/26/00)

林信太郎(秋田大学・教育文化学部・地学研究室)


Question #2209
Q 火山ができる場所としてプレートが沈み込むところがあるのは理解できるのですが、海嶺ではできないのですか?世界の火山分布は沈み込み帯にはあるのですが、海嶺には分布していないように思います。アイスランドなどのように海嶺が大陸にむき出しになっているところは火山が並んでいるのように思うのですが? (04/30/02)

一児の母:主婦:35歳

A まさにお考えになったように,日本のようなプレートが沈み込む場所(沈み込み帯) におけるよりも,海洋プレートが生産される海嶺の方がマグマの活動はずっと盛んで す.海嶺の軸に沿って,無数と言っていいほどの火山の列が数珠状に並んでいます. これらの火山の内,陸化している場所がアイスランドなどのように特殊な場所に限ら れるので思い違いされたのではないですか.
 (5/01/02)

中田節也(東大・地震研・火山センター) --


Question #3464
Q 典型的な鳥弧・海溝系地形であるアリューシャン列島、千島列島、日本列島などの形状は、潜り込む太平洋プレートに向かって凸の形状になっているように見えますが、これは単なる偶然なのでしょうか?理由があるとすれば何なのでしょうか? (11/20/02)

19歳 学生:学生:19

A 島弧がなぜ弓なり(弧状)なのかという疑問は誰もが持つと思います.私は岩 石学をやっていて,地球物理学には疎いのですが,深尾良夫氏の「地震・プレ ート・陸と海 地学入門」(岩波ジュニア新書92, 2000年)の165頁に「島弧 はなぜ弓なりか」という節があり,「ピンポン玉ペコペコモデル」という面白 い考え方が述べられているのをみつけたので,これをザッと紹介することにし ます.学生さんは是非このような一般向けの本を何冊も通読して下さい.

島弧―海溝系は海洋プレートが沈み込む場所ですが,地球の表層を覆うプレー トが地球内部に向かって凹んでいる場所と見ることもできます.しかし,プレ ートは平板ではなく,地球を覆う球形の殻ですから,ちょうどピンポン玉のよ うなものです.ピンポン玉を2つに切り割って半球形の「プレート」(太平洋 プレートだと思って下さい)を作り,その切断部を指で内側に曲げ(沈み込ま せ)ようとすると,どうしても凹みの周囲が円弧の形になります.プレートの 縁全体を沈み込ませようとすると,円弧が連なったペコペコの形になります (西太平洋の状態).ただし,島弧の中にはトンガ弧やニューヘブリデス弧, アンデス弧中部などのようにほとんど直線に近い場合もあり,必ず円弧になる というわけではありませんが,一般的にはこの考え方(ペコペコモデル)で説 明できそうです.プレートが平板でなく,湾曲した板であるため,これを内側 に曲げると必然的にその縁が弧状になるということだと思います.

これとは別の考え方もできます.沈み込み帯は地下700kmに達する大断層で, 巨大な「地球の切れ目」です.例えばミカンを地球に見立て,表面からナイフ で適当な角度で切れ目を入れると,ナイフを垂直に立てた場合以外はミカンの 表面に表れる切れ目の形が弧状になります.これはプレート論が広まる以前か らあった考えですが,弧状になる原因はやはり地球が丸いためです.

しかし,インドネシアのバンダ弧のように極端に湾曲した島弧の場合は,指で 凹ませたり平面的なナイフで切り込むモデルだけでは説明できません.ウェー ゲナーが「大陸と海洋の起源―大陸移動説」(都城・紫藤訳,岩波文庫)の上 巻181-191頁で述べているように,オーストラリア大陸の北西への移動によっ て,もともと緩いカーブを描いていた島弧が押し曲げられてヘアピン型になっ たという考えに説得力があります.
 (11/21/02)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


Question #3766
Q
 はじめまして。

 近頃、小笠原父島へ旅行をし、うぐいす砂を見たんですが、それがボニナイトという岩石だということを知りました。興味を持っていろいろ調べているうちに、50kmはなれた母島とは成因や構成する岩石が違うこともわかりました。父島と母島は近いにもかかわらず、どうして違う岩石が産出しているのでしょうか?

 加えて、母島から西にある、母島海山(小笠原古陸とも言うようですが)についても興味が出てきました。どうやら、塩基性岩やそれが変成してできた蛇紋岩で出来ているようですが、いつ頃、どうして出来たのかなど、詳しいことが知りたいと思い、質問させていただきました。できれば両方にお答えいただけると幸いなのですが、よろしくお願いいたします。 (01/15/03)

らいちゅう:学生:21

A
 小笠原諸島の島々は今から5000-4500万年ほど前の火山フロントで活動した島弧火 山です。父島以北の島嶼(父島列島,聟島列島)は5000万年ほど前の海底火山の集ま りで,少なくとも漸新世(今から3750-2250万年前)以降に隆起して島となりまし た。これらの海底火山は現在の伊豆ー小笠原の火山では産出しない,ボニナイトとい うMgの含有量が高い特殊な安山岩の溶岩でできています。この安山岩には古銅輝石 (斜方輝石の一種)という緑色の鉱物が多く含まれています。そのため,この岩石が 風化浸食を受けると固い古銅輝石だけが残り,やがて波に洗われて古銅輝石が海岸に 集まり,うぐいす砂となります。小笠原のボニナイトには古銅輝石の他に単斜エンス タタイトという乳白色の輝石を含むものがあります。この鉱物は隕石に含まれること がありますが,地球上の岩石ではボニナイトやボニナイトマグマがゆっくりと冷えて できた深成岩にしか産出しない,とても珍しい鉱物です。


 一方,母島は4500万年ほど前の火山島で,現在の伊豆諸島の玄武岩や安山岩とよく 似た岩石でできています。父島以北の海底火山とは活動した時代が違っており,父島 と母島が同時期に活動したという証拠はありません。しかし,母島の南東沖の海底に は父島とよく似たボニナイトの海底火山が見つかっていますから,母島のあたりでも 少し古い時代には同じような火山活動があったと考えられます。また,ほぼ同じ時期 のボニナイトの海底火山は小笠原のはるか南方のマリアナ諸島からも知られていま す。このように父島をはじめとするボニナイトの海底火山活動は,今から5000万年ほ ど前の一時期に小笠原からマリアナにかけての広い範囲で起こった島弧火山活動です が,現在の地球上では知られていません。ボニナイトマグマができるためには,通常 の島弧とは異なる特殊な条件が必要だからです。ボニナイトマグマは,通常の島弧マ グマよりもかなり浅いところで,水を含んだマントルのカンラン岩が溶けてできたと 考えられています。多くの島弧ではマントルの非常に浅い部分は温度が低いために, 溶けてマグマを発生することはありません。ボニナイトマグマが活動した頃の小笠原 の下のマントルは,異常に温度が高かったのです。


 小笠原の500 kmほど西の海底に九州−パラオ海嶺という海底山脈が南北に延びてい てます。その海底山脈と小笠原の間にある海底を四国−パレスベラ海盆と言います が,これは今から3000-1500万年前にプレートが東西に拡大してできた背弧海盆で, ボニナイトマグマが活動した頃にはまだありませんでした。その頃の小笠原は九州− パラオ海嶺とくっついて,火山活動が盛んな島弧の一部でした。この海嶺の西には西 フィリピン海が広がっていますが,その海底も四千数百万年前までプレート拡大を続 けていました。プレートの動きを復元すると,この西フィリピン海プレートの拡大軸 は丁度小笠原のあたりで九州−パラオ海嶺(古島弧)と交差していたらしいのです。 プレート拡大軸の直下ではマントルが湧き上がってきますから,浅いところでも温度 が高くなります。この九州−パラオ古島弧の下に拡大中の海嶺が沈み込んだために, マントルの温度が上がってボニナイトマグマができたという説があります。この沈み 込んだ海嶺は太平洋プレートとその南にあった北ニューギニアプレートの境界であっ たと考えられています。また,丁度今から4500-5000万年ほど前の小笠原のあたりに マントル上昇流があったために,マントルの温度が高かったのだ,という学説もあり ます。


 母島にボニナイトが見られないのは,父島などでボニナイトの火山をつくった後に マントルの温度が下がってしまったためでしょう。
 (01/17/03)

海野 進(静岡大学・理学部・生物地球環境科学科)