火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:北海道・千島

駒ケ岳


Question #390
Q 火砕流が実際に起こったのは、島原の普賢岳が最初ですか?それとも、それ以前に火砕流による被害が起こった事例があるのでしょうか(外国を含む)。
「火砕流」は学術上の言葉であったものが実際の現象が起きて証明されたのはいつからなのですか?昔の文献には「熱雲」の表現が多いようですが。 (01/28/00)

熊本に単身赴任中のお父さん:公務員:47

A
 カリブ海西インド諸島にあるマルチニーク島のプレー火山で,1902年に火砕流噴火 が起こりました.これが火山学的に目撃された最初の火砕流です.この時は,プレー 火山の麓街サンピエールにいた住人約3万人のほとんどが一瞬のうちに犠牲になりま した.これを調査したフランスの研究者ラクロアが,この火砕流に対して「熱雲(英 語ではGlowing cloud)」という言葉を用いました.その後,あちこちで火砕流の発 生が目撃され,比較的規模の大きなものがアラスカのカトマイ火山(1912年)や北海 道駒ヶ岳(1929年)で起こりました.後者は「軽石流」とよばれました.歴史的記録 でさかのぼると,西暦79年のイタリアのベスビアス火山の噴火で,火砕流によってロ ーマの都市ポンペイがすっかり埋もれてしまった出来事があります.厚い堆積物を取 り除いて出現したポンペイの街並みとともに,火砕流による犠牲者や犬の石膏型がよ く科学や歴史の教科書に出てきます.
 英語の「火砕流」という言葉(pyroclastic flow)は1940年頃から使われ始めまし たが,現在の火砕流の意味で使われ始めたのは1950年代の終わり頃で,日本の火山学 者が定義しなおしたものです.日本語の火砕流が使われ始めたのは1960年代になって からです.この定義に従うと,熱雲と軽石流は火砕流のうちで,それぞれ,小規模な ものと大規模なものに当たります.
 普賢岳噴火で起こった火砕流はまさに熱雲でした.日本語の「火砕流」という言葉 の意味が一般の人にはつかみにくいので,普賢岳噴火の際に何度も問題になりました .地元の人が誤解して「火石流」と使っていたのには大変考えさせられました. (1/29/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #355
Q 初めまして。今、温泉について調べていくうちに火山にたどり着いてしまいました。火山が噴火して温泉ができる歩みを調べているんですが何かいい方法で調べることはないでしょうか?できれば、北海道の駒ヶ岳のことについて調べているんですけど・・・。そして、昔、森町の濁川でも、噴火して温泉ができたと聞いています。そのことについても詳しく教えていただけませんか? (12/17/99)

326:学生:18歳

A こんにちは。 火山のまわりに温泉が多いのは,火山活動に伴ってマグマが浅いところまで上昇し, そのマグマが熱源となって地下水を暖めて温泉を作るからです。最近,火山活動とは 直接関係のない場所で,深いボーリングによって温泉がいたるところに出ていますが ,これらの多くはマグマとは直接関係ありません。地下深いところほど温度が高いの で,どこでも数100から1000m程度の深さでは温泉に適当な温度になっているのです 。温泉の成分等については過去のQ&Aを参考にして下さい(例えばQ342)。

火山が噴火して温泉ができる歩みですが,火山毎に色々で一概には言えません。フィ ールドガイド「日本の火山」(築地書館)などで知りたい火山毎で調べるのがいいか もしれません。あなたは北海道の方のようですのでいくつか例をあげてみます。例え ば洞爺湖温泉や吹上温泉です。洞爺湖では有珠山の明治の噴火以前には温泉がありま せんでしたが,噴火以後に温泉が沸きだして日本有数の温泉街に成長しました。この 明治の噴火ではマグマが温泉街の近くまで上昇して地面を持ち上げ明治新山を作りま した。このごく浅いところまでやってきたマグマが温泉の熱源になったことは明かで しょう。十勝岳の吹上温泉は1962年の噴火以後,1988年までは温泉の温度がどんどん 下がり入浴には適さないほどでした。しかし1989年の噴火以後,温泉の温度はどんど ん上昇して再び脚光をあびるようになりました。この例も火山活動と温泉の密接な関 係を示しています。

北海道の駒ケ岳は日本を代表する活火山のひとつで,現在は西暦1640年の大噴火から 始まった活動期の最中です。1640年以降にも、1694・1856・1929にマグマを放出する かなりの規模の噴火をしています。詳しくは「フィールドガイド・日本の火山3,北 海道の火山」(築地書館)を参考にして下さい。このような活発な活動を続ける火山 なので,鹿部温泉や東大沼温泉などの温泉があります。これらの温泉は山から離れた 山麓にあり,より駒ケ岳に近いところでは温泉ありません。これは火山体では内部は 隙間の多い構造になっており,熱源があっても肝心の地下水が存在しないためです。 火山体深く染み込んだ地下水は山麓部で湧きだしますが,その過程で暖められて温泉 となります。

一方の濁川は約1万年前の噴火によって生じた小型のカルデラです。その時の一連の 噴火活動によってマグマが浅い所まで上昇しています。現在ではマグマはほぼ固まっ ていますが,十分に高温を保っています。つまり高温な岩体が地表近くに存在してい るのです。その岩体を熱源として濁川には温泉が存在しますし,地熱発電も行われて いるのです。 (1/17/00)

中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)


Question #1264
Q はじめまして、私は函館に住んでおりますが、今年の9月以降北海道駒ヶ岳が小噴火したというニュ−スを何度か耳にしました。近くに住むものとして、今後、大きな噴火につながる可能性があるのか気になります。また、大きな噴火があった場合どのような被害が考えられるのでしょうか。今年噴火した有珠山のような状態になるのでしょうか。火山についてはまったくの素人でよくわかりませんが、よろしくおねがいします。 (11/15/00)

鈴木 幹男:会社員:40

A 鈴木さん、こんにちわ。 お近くに住んでいる方々にとって,駒ケ岳は本当に心配ですね。私達も地元の研究機 関のひとつして,その活動の行方には大きな関心を持って監視を続けています。

駒ケ岳は1640年から数千年の休止期を終えて活動期に入っています。そしてこれまで の360年間に4回のマグマを放出したかなりの規模の噴火と,その他に水蒸気爆発と考 えられる中小の噴火を繰り返しています。20世紀には1929年(昭和4年)に大量の軽 石を吹き上げ(噴煙柱),そしてその1部は火砕流(軽石流)として山麓を流下しま した。さらに1942年には山頂火口原に約1.6kmの割れ目火口を形成した水蒸気爆発を 起こし,山麓では降灰や泥流が発生しました。その後、活動は下火になり54年間の静 穏な時期がありました。そしてご存じのように,1996年,1998年そして2000年と小規 模な水蒸気爆発を繰り返しています。

今年になって続く小規模な噴火が,より大きな噴火に至る前ぶれかどうかは,現段階 では残念ながらわかりません。ただ1929年や1942年の噴火の前には,1919-1923年( 1924?)あるいは1935-1938年に小規模な噴火が繰り返されています。そのことを考 えると,「現在の状態は1929年あるいは1942年噴火前と似ている」,ということは確 かです。しかし規模の大きな噴火には至らず,このまま活動が次第に下火になってゆ く可能性も否定はできません。そのために活動の変化や噴火の前兆をとらえるために 各機関では観測機器の充実をはかり,自治体を中心とした防災対策の整備を急いでい る訳です。

仮に本格的な噴火になった場合ですが,まずその規模を考えてみましょう。1640年以 降を考えてみると,1640年噴火が最も規模が大きく,その後は規模は1640年噴火の半 分以下の規模となり,最大でも1929年噴火クラスあるいはそれ以下になっています。 そのため将来おこりうる噴火は最大でも1929年クラス,場合によってはそれほど規模 の大きくない1942年クラスとなると考えるのが現実的でしょう。起こりうる災害とし ては,1929年程度の規模であれば山麓部での火砕流の流下による被害,風下方向を中 心とする降灰による被害が予想されます。またそれらの堆積物が多量の降雨をきっか けに2次的に移動して発生する泥流による被害が考えられ,噴火活動が下火になって も泥流の発生はしばらくは続くでしょう。1942年と同様の噴火であれば降灰と泥流が 考えられるでしょう。これまでの駒ケ岳の噴火についての情報や,どのような災害が どの範囲で起こりうるか,そして噴火に対してどのような対応をとるべきかについて のより詳しいことは,火山災害予測図,防災ハンドブックやビデオ(有料)にあり, 下記で入手可能です。 040-0063北海道茅部郡森町字御幸町144-1 森町役場駒ケ岳火山防災会議協議会事務局  電話01374-2-2181

有珠山との比較ですが,有珠山ではマグマの貫入による地殻変動も大きな災害要因と なりますが,駒ケ岳では大きな地殻変動がおこる可能性は小さいと考えられます。ま た有珠山ではマグマの貫入が長期間続くため,活動が長期化しますが,駒ケ岳では噴 火活動の主要なイベントは短期間で終わります(1929年では1日以内)。このように 地殻変動の有無や活動期間などで違いがあります。しかし駒ケ岳山麓も有珠山と同様 に,国道や鉄道など北海道の幹線交通網が走り,近くには函館空港,そして火山灰が 流れる西方海上は,国内や国際線の空路となっています。駒ケ岳でも噴火は地域への ダメージを与えるだけではなく,より広範囲への社会的影響を及ぼすことが考えられ ます。そのような点を考慮して防災対策を行う必要があるでしょう。 (11/25/00)

中川光弘(北海道大学・大学院理学研究科・地球惑星物質科学教室)


Question #1722
Q 温泉井戸と火山活動との関連性について質問があります。
北海道駒ケ岳付付近に宿泊施設があり、その敷地内から温泉をくみ上げているのですが
最近温泉の水位上昇,水温低下,水が濁る等の変化がありました。
この温泉は、地下1000m以上のところまでボーリングを行い、温泉をくみ上げています。
駒ケ岳火山活動による関係があるのでしょうか。
また、過去にこのような事例があったのでしょうか。
よろしくお願いします。 (05/21/01)

SAD:会社員:27

A
 火山周辺に湧出する温泉や地下水は,火山活動に伴って様々な変化を示すことがあ ります.火山活動に伴って温泉や地下水に異常が認めらた場合,以下のことが考えら れます.

(a)火山活動に伴いマグマから放出された熱や火山ガスなどが帯水層に影響を与え る.
  −>温度上昇,水質変化,水位変化.

(b)マグマの移動・発泡などにより地殻が変形する.
  −>水位変化.

(c)噴火活動の際,激しい地震動によって帯水層が乱される.
  −>水位変化,水質変化.

(d)マグマの移動・貫入等に伴い火口や断裂帯等が形成される.
  −>新たに熱泥水や温泉,地下水が噴出.


 予想される変化を比較して見ますと,(a)は温度上昇や水質変化が主で,場合に よっては水位変化が生じることもあります.異常は噴火後しばらくしてから現れる場 合の多いのが特徴です.それに対し,(b)と(c)は主に水位変化として短時間に 発生します.(d)はそれまで温泉や地下水が湧出していなかった場所に新たに出現 します.
 火山活動や噴火によって生じる温泉や地下水の異常は多くの火山で観測されていま す.


 北海道での比較的最近の事例を取り上げますと,十勝岳1989年の噴火活動の際,山 麓の温泉では泉温上昇,塩化物イオン濃度やナトリウムイオン濃度が顕著に増加しま した.この噴火では,それまでは低温で利用できなかった泉源が泉温上昇により浴用 可能となり,吹上温泉として多くの観光客が訪れる露天風呂(無料)として人気を博 しています.昨年,噴火した有珠山では,山体を中心とした広い範囲で噴火前に水位 異常が観測されました.この現象は,噴火の前兆として注目されました.有珠山北麓 の洞爺湖温泉・壮瞥温泉では,噴火後には100mにも及ぶ水位上昇が観測されたり,顕 著な泉温上昇や水質変化も観測され,現時点でも噴火前の状況には戻っていません.


 ご質問の北海道駒ヶ岳山麓でも1996年の噴火後,深度700〜1500mのボーリング井か ら汲み上げられている温泉の水質が変化したことが報告されています.しかし,深部 ボーリングにより開発された温泉源は,井戸障害による水位変化や水温変化,更には 水質変化を引き起こす場合もありますので,注意する必要があります.駒ヶ岳周辺で は浅部(深度300〜600m程度)で25〜35℃前後の良好な帯水層が発達する地域もある ため,実際に井戸障害により浅部帯水層から低温水が流入して水位上昇,泉温低下, 泉質変化が生じている温泉井戸もあります.したがって,ご質問に正確にお答えする には,該当する井戸の掘削位置,井戸構造,もし定期的に観測しているのであれば水 位や水温等のデータがあれば,より明確な回答が可能になると思います.
 更に,詳しいことをお知りになりたければ地質研の秋田(011-747-2211 ext432) まで直接問い合わせ下さい. (05/25/01)

秋田藤夫(北海道立地質研究所・ 環境地質部)


Question #2174
Q 私は、高校2年になるものです。春休みの宿題で北海道の自然についてレポートを書かなければいけません。そして、私は大沼湖にしたのですが・・・・。
大沼湖は、駒ケ岳のカルデラ湖ですよね??(違ったら、訂正してください)
で、大沼湖の出来方について教えてください。調べてみたのですが出てないので、質問します。大沼湖でなくても、カルデラ湖の出来方を教えてください。

(03/16/02)

ひろこ:高校生:16

A 「大沼湖は、駒ケ岳のカルデラ湖?」という質問ですが,答えは「いいえ」です.
 大沼のでき方は駒ヶ岳の火山活動に深く関係しますが,カルデラ湖ではありませ ん.火山から流れてきたもの(火砕流,岩屑なだれ,泥流)によって川がせき止めら れてできた堰止め湖です.大沼がいつから堰止め湖として存在していたかは解明 さ れていませんが,幾たびもの駒ヶ岳の噴火によってせき止められ,今から約350年 前に現在の形になったと考えられています.駒ヶ岳は西暦1640年7月31日(寛 永17年6月13日)に,約5000年ぶりに大噴火を起こし,山が大きく崩れまし た(山体崩壊).崩れた山は南(大沼の方向)と東(鹿部の方向)に流れ下り,流れ 下った堆積物が川を堰き止め,大沼,小沼,じゅんさい沼が形成されました.大沼周 辺に点々と分布する小さな丘はそのときの火山体の崩壊物がたまった時にできる特徴 的な地形です.
 大沼と同じようなでき方をした堰止め湖は磐梯山の1888年の火山体の崩壊によ ってできた檜原湖,小野川湖,秋元湖,五色沼などがあります.
 カルデラ湖は噴火などによって陥没した火山性の凹地(カルデラ)の中に水がたま って形成された湖です.北海道では摩周湖,洞爺湖,支笏湖などがカルデラ湖です.
 (3/27/2002)

吉本充宏(東京大学・地震研究所・火山センター) --