火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

身近の火山:東北地方

安達太良山


Question #74
Q 初めて質問させていただきます。場違いな質問かもしれませんが、お許し下さい。 私の住む熊本の阿蘇山は観光地として大変親しまれているのですが、火山ガス(主に亜硫酸ガス)による事故死が数年に一人とわずかではありますが、 絶えません。昨年も2件の事故死が起きたことから、火口周辺への立ち入り規制が厳しくなりました。 そこで他県ではどういった火山周辺への立ち入り規制がされているのか、調べたいのですが教えて頂けないでしょうか。 また、参考になる書籍等がありましたら推薦して下さい。 よろしくお願いします。 (5/7/98)

これ:大学院生:26

A
 阿蘇山のガス事故の原因になった亜硫酸ガスは、喘息の人が吸うと、ごく微 量(通常人の警戒値の1/100)でも発作を引き起こす性質があります。そのた め、阿蘇山のロープウエーの乗り場や駐車場には、「喘息の方はご遠慮くださ い」という看板が前から出ていました。この注意が、必ずしも徹底されていな かったために、今回の悲劇が発生したと理解しています。喘息のひとや心臓疾 患のあるひと、高齢者などの『ハイリスクパースンについては、特別な扱いを する』という社会全体のコンセンサスがあまりなかったのが、いけなかったの でしょう。ただ、今回のように、ハイリスク群の警戒値をすべての人に適用す るのは、どうかとおもいます。しかし、よく考えて見れば、すべての人が安心 して訪問できることになるので、やっぱり歓迎すべきかな。

ほかの火山の例

(1)群馬県の草津白根山には、東京工業大学の観測所があります。火山ガス 地帯で、硫化水素ガス濃度の連続測定が行われており、決められた警戒値を超 えると、警報が出され避難を促すシステムができています。 (2)富山県の立山の地獄谷では、ガスの多い地帯には柵が設けられており、 危険なので外にでないようにという、看板があります。しかし、冬など風の凪 いだ時には、柵の外でも息苦しいほどです。時々事故もあるようですが、特に 連続観測や警報システムなどはまだないようです。 (3)福島県の安達太良山では、昨年硫化水素ガスで一度に4名もの登山者が 亡くなりました。かなり、登山道からはずれた場所であり、すべての危険箇所 に看板を立てたり、ロープをはったりすることは難しいようです。最近になっ て、沼ノ平登山ルートそのものが廃止になりました。したがって、対登山者警 報用のセンサーなどはありません。 (4)伊豆大島三原山では、1986-87年の噴火以来、火口周辺への立ち入りが禁 止されてきましたが、10年目の1996年に規制が解除されました。登山道の両側 には柵やロープがあり、火口周辺を自由に歩き回れるようにはなっていませ ん。この規制は、火山ガスだけが理由ではないとおもいます。

参考書・雑誌

宇井忠英編(1997)火山噴火と災害,東大出版会,217p.

ルポ:安達太良山の遭難から-火山ガスの警笛- 「岳人」1997年11月号(No.605),92-96.

緊急企画:火山ガスその見えない恐怖 検証:9月15日安達太良山・沼ノ平で何が起こったのか(長谷川哲) 解説:火山ガスの特性と対応策を知る(羽根田治)小坂丈予先生に取材 「山と渓谷」1997年11月号(No.748),143-147. (5/14/98)

千葉達朗(アジア航測(株)防災部)


Question #2452
Q 安達太良山の沼の平について質問です。
深く侵食された火口壁とそれとは対照的な平坦な円形の火口底という特異な形状をしていますが爆裂火口でありながらあの人工物を思わせる円形の火口底はどうやって出来たのでしょうか。溶岩湖ではないですよね。今でも泥の噴出があるようですが火口形成後大量の泥が吹き出してあのような形になったのでしょうか。(ほとんど火口底が侵食を受けてないように見えるのは常に新たな泥に埋められてるからですか)よろしくお願いします。

(07/29/02)

アマンタジン:医師:27

A
 非常に火山学的センスのあるご質問ですね.ご指摘の通り,安達太良の沼の平は爆 裂火口とされており,それは事実です.そして,この爆裂火口内では水蒸気爆発やマ グマ水蒸気爆発が繰り返し起こっています.また,火口は重力的に不安定なところで もあり,河川(ここでは硫黄川)による削剥や浸食も進行します.つまり,1つの 「爆裂火口」の中で複数の「火口」ができては浸食されてきた,ということになりま す.円形の火口底をもつ火口はその中で最も新しくできたものと考えられます.これ もやがては硫黄川によって,あるいは次の爆発によって消滅してしまうかも知れませ ん.そして,平坦な泥の広場は,水蒸気爆発の時,火口周辺や爆裂火口壁にたまった 大量の火山灰が水によって流されて低いところ,すなわち活動を停止した火口に再び 堆積してできたものです.水とともに溜まったので非常にきれいな「水平面」を作っ ています.沼の平の「爆裂火口」は,底だけはすぐ抜けるので,その都度新しく張り 替えているけれど,胴(壁)は古いまま使っている鍋みたいなものだと思っていただ けるとお解りいただけるかと思います.
 (07/29/02)

藤縄明彦(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科)