火山学者に聞いてみよう -トピック編-  

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「Q&A火山噴火」 に寄せられた意見集


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Jan. 2012.

The Volcanological Society
of Japan.

kazan-gakkai@kazan.or.jp

話題の映画・本

ダンテズピーク


Question #363
Q 映画”ダンテズ・ピーク””ボルケーノ”について質問させてください。
まずダンテ〜について。劇中の噴火の流れとして@マヨン山を思わせる尖った成層火山がA震度6クラスの地震とともに噴火を開始しB水のような溶岩を流しC最後に山そのものを吹き飛ばす大爆発、っといった流れですが、@の様な山がBのような溶岩を流すのか、またBのように玄武岩質の噴火に続いてCのような噴火が起こり得るのか疑問です。全体の流れとしてBが余計なのではと思うのですがどうでしょうか。

 次にボルケーノについて。玄武岩質の単生火山形成のパターンとしてパティキュリン山とか伊豆の大室山とか、まずスコリア丘を形成しその麓から溶岩を流す、というものだと認識してるのですが映画の中ではいきなり溶岩噴泉が上がっています。こういう事もあり得るのでしょうか。また灼熱の溶岩の上に飛び下りあっという間に体が溶けてしまうというシーンがありましたが、たかだか1000度くらいであのようになってしまうのでしょうか。岩波文庫の『火山』という本で”流れ出たばかりの溶岩でもその上をピョンピョン飛び跳ねるようにしてれば歩ける”っといった文を読んだ記憶があります。実際どうなのでしょうか (12/29/99)

yoshiaki:大学生:24

A 1997年に火山を描いた映画がたてつづけに公開されましたね.どちらも映画館で 見ましたが,火山を扱った映画として,どちらもそれなりに楽しめました.

まず“ダンテズ・ピーク”についてです. “ダンテズ・ピーク”のモデルとなった火山は,アメリカのカスケード地方にあ る,1980年に大噴火を起こしたセントヘレンズ山と思ってよいでしょう.セント ヘレンズ山は,富士山に似た安山岩質溶岩,火砕岩からなる,円錐形の成層火山 でしたが,山体内へのマグマの貫入で変形が進み,大地震が引き金となって崩 壊,プリニー式噴火,火砕流,ブラスト,岩屑なだれが発生しました.“ダンテ ズ・ピーク”に描かれた火山活動と比べると,溶岩噴泉と流れの速い溶岩流を除 いてよく似ています.また映画の最後で映されるダンテズ・ピークは,崩壊後の セントヘレンズ山そっくりです. カスケード地域の火山は安山岩質の火山が多く,玄武岩質の火山に特徴的な,溶 岩噴泉,流れの速い溶岩流はあまり見られません.また玄武岩質の火山噴火に, 規模の大きな火砕流はあまり起きません.溶岩噴泉や流れの速い溶岩流の部 分は,おそらく映画としての脚色がなされている部分です.安山岩の厚くてゆっ くりと流れる溶岩では,やはり絵として面白くないということなのでしょう. もっとも火口が異なったり噴火が進むに従って,異なる組成のマグマが噴出する ことは,ありえないことではありません.例えば,南九州,池田火山の噴火で は,まず水蒸気爆発が起こり,ついで安山岩質のスコリアが噴出し,ついでデイ サイト質の降下軽石,火砕流が発生しています. なお“ダンテズ・ピーク”は,アメリカ地質調査所カスケード火山観測所が考証 に協力しており,個々の火山活動を描くという点では,致命的な間違いはそうあ りません.それでもややおかしなところ,誇張されているところなどがあり,こ の映画公開と同時に,カスケード火山観測所では「“ダンテズ・ピーク”よくあ る質問集」をweb上で公開しています.また私はこのFAQ集を日本語訳して公開し ているほか,千葉達朗さんのwebページにも“ダンテズ・ピーク”に関するページ があります.よろしければ以下のURLを参照してください. DANTE'S PEAK FAQ'S ダンテズ・ピークFAQ'S (DANTE'S PEAK FAQ'Sの日本語訳) 「ダンテズ・ピーク」を火山学的にまじめに考えるページ “ボルケーノ”のほうは,“ダンテズ・ピーク”に比べ火山学的にやや荒唐無稽 な描写が多く,科学考証という点ではあまり高い評価を与えることはできませ ん.ちょっと首をひねるような描写が目につきますが,疑問に思われたいきなり の溶岩噴泉は,必ずしも間違いではありません.単成火山でも火砕丘がほとんど 成長せずに,溶岩流を流しただけの火山というものも,東伊豆単成火山群などに あります.単成火山ではありませんが,ハワイのリフトゾーンや伊豆大島の側火 山にも,スコリア丘がほとんど成長せずに,溶岩噴泉と溶岩流を流す活動をした ものがあります. 一方,ご指摘の溶岩流の上に落ちただけで,半ば一瞬に蒸発してしまうという描 写などは,誇張が過ぎる描写のひとつと言ってよいでしょう.ハワイなどでは, 表面だけが黒く固化した溶岩流の上を,「ピョンピョン飛び跳ねるよう」に歩く ことができたこともあるようです.ただし非常に危険なことには変わりなく,ハ ワイ火山観測所には,溶岩流を踏み破ってしまい,大やけどを負った研究者のズ ボンが展示してあります. (12/31/99)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・環境地質部)