火山についてのQ&A |
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Question #75 | |
Q |
僕は今就職活動を行っておりまして
環境関連、とくに新エネルギーに関心があります。
そこで原子力に変わる新しいエネルギーとして
地熱発電というのをおもいつきました。
この地熱発電を用いさえすれば 1.資源が無尽蔵にある 2.廃棄物が出ない 3.地下に建設をすれば建設場所に制約を受けない こういったメリットにありつけます。 そこでマグマが地表に近づくことによる弊害が何かあるのかどうか このことについて質問させてください。 僕が気になったのは 1.地球の内部温度が冷却されることによって何か起こるのか 2.火山活動を誘発しやしないか こんなところです。 是非専門家のご意見お聞かせ下さい。 (5/8/98) |
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A |
自分たちのおかれている現状を考え,よりよい方向に社会を動かしていこう というお考えに接し,うれしく思います.が,残念ながら否定的なお答えをし ます. まず,原子力にかわるエネルギーとしての地熱発電ですが,具体的な数値は 電力関係の方に出していただく必要がありますが,私が聞いている範囲では, 現在の我が国の電力供給の大部分は原子力と火力であって,地熱発電が供給し ている電力は全電力需要の数%にすぎないと聞いています.しかもこの数値 は,地熱発電所の建設に相当努力してきた結果ですから,原子力にかわるエネ ルギーとするのは無理ではないでしょうか.確かに火山が放出する熱エネルギ ーは膨大です.たとえば浅間山の火口からは常時100MW(メガワット)の熱エ ネルギーが放出されており,その他の火山や地熱地帯でも数10MWの熱エネルギ ーを放出しています.このエネルギーのすべてを電力に変えられればいいので すが,変換効率が低いのが現状です.それは発電が火山ガスや水蒸気の熱エネ ルギーを直接電気に変換しているのではなく運動エネルギーをタービンを回す ことによって電気に変えているからなのです.熱エネルギーを人類が直接利用 する方法を開発すれば,状況はかわるでしょう. 廃棄物が出ないというのは必ずしも正確ではなく,地下の蒸気を直接使用す れば,その中に含まれるヒ素や水銀などによって環境が汚染されます.現在の 発電所は蒸気を地下に還元し,地表に出ないように工夫されているのです.逆 に言えばその対策を誤れば環境汚染を引き起こします. 建設場所に制約がないという点についても問題があります.1つは,地熱発 電所が地下で蒸気を採取すると付近の温泉が枯渇することがあるのです.日本 の多くの火山や地熱地帯のまわりには温泉やそれに関連した観光地があって簡 単に発電所を造ることはできません. さてご質問の地球の内部の冷却・火山活動誘発の件ですが,地熱発電は地球 そのものの冷却にはほとんど寄与しないでしょう.現在は技術的に簡単ではな いのですが,たとえば地下に存在するマグマにむかってボーリングを行うと, 場合によっては圧力が急速に低下してマグマに溶けていたガスが急速に分離し て噴火を誘発するかもしれません.また,火口の浅い部分にまでせり上がって いるマグマの中にパイプを通して熱エネルギーを取り出すといったことをする と,場合によってはその部分のマグマが固まって深部で発生するガスの放出を 阻害し噴火することもあるかもしれません.しかし,現状ではそのようなエネ ルギーを経済的にかつ安定して取り出す技術がまだ確立されていません. ここでは否定的なことばかりを言いましたが,離島の火山などでの小規模な 発電などまだまだ可能性はあると聞いています.自分たちのおかれている現状 を少しでもよりよい方向にむける気持ちを大切にしてください. (5/11/98) 鍵山恒臣(東大・地震研究所・火山センター)
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