火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #69
Q 友達とマグマ溜りについて話していて疑問に思ったのですが、 マグマ溜りは地下水(帯水層)の様に固体の空隙に液体が入っている のか、液体がある程度の空間をしめているのかどちらでしょうか。 もし、岩の隙にはいっているのなら溶岩のなかにその岩があるとおもいます 。友達は減圧で溶けたのかもしれないと言ってました。 また、マグマがある程度の空間をしめているのなら、物理探査などで見つけ れるのではないかと思います。 そこで質問ですが、今のマグマ溜りのイメージはどういうものなんですか? それに関連してマグマ溜りのできる辺りの状態(圧力、温度、物性、空隙 )などはどのようなものと考えられていますか?

(3/24/98)

senda yoshimichi:学生:21

A
 質問を拝見しました。ご質問は、


 1.マグマ溜まりに対して、現在もたれているイメージ(内部構造)は?
 2.マグマ溜まりのできる深さでの物理的環境は?
 3.マグマ溜まりが物理探査で検出できるか?


 この問題は現在の火山学ではとても重要な問題であると思います。


 質問を受けて私もあらためて調べてみましたが、「マグマ溜まり」とはいっ たいどのような概念でしょうか。なんとなく頭の中では、火山の下に高温の流 体が蓄積された場所、というイメージがあるのではないでしょうか。
 この「マグマ溜まり」の概念をもっともドラマチックに表現しているのが、 カルデラの成因を説明する諸説です(大容量のマグマを溜める領域を想定する ことによって、短期間に大量の噴出物を出し陥没することが説明できる)。ま た、富士火山のような複成火山では噴火が繰り返し発生することや、その過程 で鉱物組成が変化するということもマグマ溜まりの存在を示す地質学的な証拠 として取り扱われています。さらに、活火山周辺の地震観測から地震波の振幅 異常や特徴的なスペクトルのピークを持つ火山性微動が見つかったり、水準測 量をはじめとする地盤変動観測から変動圧力源が推定されるなど、地球物理学 的な観測データからも火山活動に関連した、ある程度の広がりを持つマグマ溜 まりの存在が示唆されています。しかし、マグマ溜まりの地質学的な点からの 存在の要請と、地球物理学的な点からの要請は、質的には異なるものであるこ とにご注意ください。その存在は複数が推定されることが多く、地表から1キ ロの深さとか、地表から10キロの深さという話が頻繁になされます。このよ うに特定の深さにマグマの溜まり(あるいは圧力源)が推定されるのは、マグ マとその周囲の密度が等しくなって、浮力がゼロになるからだ、という説明が なされることがよくあります。だいたい、地下10キロ付近では静水圧 0.25GPa程度、マグマ溜まりの温度は800〜1000度ということで話を進めること が多いようです。空隙率については、手元に資料がないのでご了承ください。
 マグマ溜まりの内部構造に関する研究としては、噴出物や古代の火成岩体か らその手がかりを得る方法と、地震観測などの地球物理学的なデータから手が かりを得る方法があります。噴出物の岩石学的な検討(斑晶鉱物組成の変遷の 追跡)では、マグマ溜まり内部ではマグマ混合が起こり得る可能性が示されて います。つまり、これは「いわゆるマグマ溜まり」の中では、マグマが流体と して流動し得る条件があることを示唆しています。しかし、これだけではマグ マがじゃぶじゃぶにたまっているのか、それとも岩石の隙間にしみこんでいる のかについて結論は出せません。速さは違えども流動が可能であるという点で は区別ができません。古代の火成岩体の研究からでは、冷え固まる過程の最終 的なマグマ溜まりの内部構造や温度・圧力の履歴はわかっても、現在活動中の 活火山の「マグマ溜まり」の内部構造はわかりません。
 一方、最近では地球物理学的な観測データからマグマ溜まりの形態を検出し た例も出てきました。日本では1990年代になって伊豆大島の地震観測デー タ(そのなかでも後続波)から深さ10キロ付近に扁平で地震波の散乱強度が 大きい領域があることがわかってきていますし、ハワイでは1970年代にす でに地盤変動のデータから水平方向に薄く広がるシート状のマグマ溜まりの存 在が推定されています。
 これでマグマ溜まりのことがわかった!と言いたいところですが、これらの 結果の取り扱いには注意が必要です。伊豆大島の例では火山の地下に存在する 地震波速度の異常な場所で発生する地震波の散乱効果を用いていますが、この 散乱効果の大きさはその散乱体の密度と地震波速度が周囲と比べてどれだけの 差があるのかということと、解析の対象とする地震波の波長に大きく依存しま す。伊豆大島で使った地震の主な周波数成分はおそらく数ヘルツ〜十数ヘルツ でしょうから、地震波速度を2キロ毎秒ぐらいとすると、波長は数キロから数 百メートル程度です。つまりこの例では目安として波長の1割以下のスケール (数百メートルから数十メートル)のものはあまりよく見えない(散乱波とし て検出しにくい)のです。そのために伊豆大島の結果もぼんやりとしか散乱体 がみえません。話に出ていたマグマの存在形態を議論して決定的な証拠を押さ えるためには、波長を選んで現在よりも少なくとも3桁以上分解能をあげる必 要があります。また、地震波速度と密度の周囲との差についてもマグマが液体 そのものとして存在するのか、それとも岩石にしみこんでいるかという存在形 態の差が直ちに反映されるものではありません。間違いなくわかるのはただ、 地震波速度または密度の異常が地震波の波長に対して無視できない大きさで存 在することだけです。
 また、ハワイの例では地殻変動のデータからの推定ですので、扁平なマグマ 溜まりの広がりや厚さについてはあまりはっきり特定できているとは思えませ ん。少なくとも深さは特定できているとは思います。間違いなくいえることと しては、時間を追っていろいろな場所に地盤変動の圧力源が移動するというこ とだけなのです。地球物理的な観測データからも、マグマがじゃぶじゃぶにあ る程度の空間を確保してたまっているのか、岩石にしみこんでいるのかという 問題を解決する決定的な証拠にするためには分解能がたりません。
 マグマ溜まりがある程度の大きさで、周囲に比べて明らかに地震波速度など の物性の差があれば、一応、物理探査ではそれとおぼしきものが見つかるはず です。むしろこれからの問題として、マグマ溜まりの内部構造を探る有効な手 法は探されなければならないのではないかと思います。質問を機会として、こ のような問題に取り組んで話を進めてくれるといいのですが・・・・。 (3/24/98)

筒井智樹(京大・理・地球熱学研究施設)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp