火山についてのQ&A |
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Question #6326 | |
Q |
初めまして、私は今、大学の研究室で大分県九重のタデ原湿原において火山灰が湿原に及ぼす影響を研究しています。九重タデ原湿原において、ボーリングコアを3本採取し最も深く掘って420cmのコアを採取しました。そのコアの深さ250〜255cmの層に火山灰層を発見しました。タデ原湿原の報告書には記載されていない層でしたので、その火山灰層の起源が分かりません。そこで、自身で火山灰の同定を行いたいと思っているのですが、EPMAか蛍光X線のどちらで元素組成を分析しようか悩んでおります。大抵の文献などではEPAMで同定しているのですが、ただ組成を見るだけであれば蛍光X線でよさそうな気がしています。なぜ、研究者の方たちはEPMAで同定することが多いのでしょうか。 教えていただけましたら幸いです。 (12/14/06) tephra:高校生/大学生:22 |
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A |
ご質問について,お答えさせていただきます. ご指摘のように,火山灰の同定に関しては蛍光X線ではなくEPMAによる分析が一般的に行われます.火山灰には,火山ガラスや結晶,岩片などが含まれているわけですが,噴火をもたらしたマグマの特徴を最も反映しているのは火山ガラスの化学組成です.EMPAでは電子顕微鏡の画像を見ながら,火山ガラス一つ一つの化学組成を測定することができますが,蛍光X線分析では火山ガラス・結晶・岩片など,全てが混ざった平均的な化学組成を計っていることになります.もちろん,顕微鏡などで観察しながら,ガラス粒子だけを集めて(相当な量が必要),蛍光X線分析を行ってもいいのかもしれませんが,非常にたいへんな作業になってしまいます.したがって,火山灰の場合はEPMAによるガラス粒子の化学組成で,その起源が決定されるわけです.しかし,化学組成の分析まで行わなくても,火山灰層の層準や特徴(色調・堆積構造など),火山灰に含まれる鉱物組合せやガラスの形態(バブルウォール型や軽石型など)からも同定できることがあります.まずは調査地域の火山灰層序について書かれた報告を読まれてはいかがでしょうか.次の文献が参考になると思います(p.75にタデ原湿原付近のテフラ断面の写真があります). ・鎌田浩毅(1997)宮原地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,127p. ご質問の主旨とははずれますが,「火山灰が湿原に及ぼす影響」という面白い研究をされているようですね.実は私もそうした問題に興味があり,阿蘇火山周辺域で火山活動と草原の歴史について調べているところです.阿蘇カルデラ東方域では,3万〜1.3万年前頃に火山活動の活発化により草原植生が衰退傾向にあることがわかってきました.詳しくは以下の論文をご覧ください.後者は一般向けに書いたもので,私のHP(http://ymiyabuchi.hp.infoseek.co.jp/main.htm)からダウンロードすることができます. ・宮縁育夫・杉山真二(2006)阿蘇カルデラ東方域のテフラ累層における最近約3万年間の植物珪酸体分析.第四紀研究,45(1),15-28. ・宮縁育夫・杉山真二(2006)阿蘇火山の活動と草原の歴史−カルデラ東方域での植物珪酸体分析結果から−.九州の森と林業,76,2-4. 九重火山のタデ原湿原におけるご研究の進展を期待しております. (12/14/06) 宮縁育夫(森林総合研究所・九州支所) |