火山についてのQ&A |
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Question #5880 | |
Q |
岩石の分化の指標にFeO/MgOとNa2O/CaOが使われているのですがなぜなのですか? また、化学組成の表によく(K2O+Na2O+CaO)/Al2O3だけが分子比と書かれているのですが、この値の意味するところがわかりません、さらになぜ他のように重量比を使わないのですか? (08/15/05) むら:高校生/大学生:22 |
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A |
これはかなり専門的な質問ですね.この質問には,高校地学の教科書に必ず出てくる「固溶体」や「結晶分化作用」といったキーワードを使って答えるのですが,高校地学の教科書をいくら熟読しても回答は出てきません.大学の専門課程の岩石学のレベルですね.岩石学の教科書をよく読めばわかるはずですよ. 例えば,玄武岩マグマから早期に結晶する「かんらん石」という鉱物は,その中に含まれる鉄(Fe)とマグネシウム(Mg)の比がゼロから無限大まで様々に変化する「固溶体」です.地球表層付近の通常の条件でかんらん石がマグマから結晶する時,かんらん石(S:固体)のFe/Mg比とマグマ(L:液体)のFe/Mg比は等しくならず,(Fe/Mg)S/(Fe/Mg)L=0.3の関係があることが,いろいろな組成のマグマについて実験的に確かめられています.つまり,あるマグマから結晶するかんらん石は,必ずそのマグマよりもFe/Mg比が小さくなり,結晶が沈降するなどして物理的に取り除かれたあとに残ったマグマは,最初のマグマよりもFe/Mgが増加することになります.マグマと輝石の間にも同様の関係があるので,マグマからかんらん石や輝石が結晶し,その結晶がマグマから物理的に取り除かれる「結晶分化作用」により,マグマのFe/Mg比はどんどん高くなっていくことになります.ただし,マグマ中の酸素の増加などにより磁鉄鉱(Fe3O4)のようにMgを含まずFeを多量に含む鉱物が結晶するようになると,それ以後のマグマのFe/Mg比の増加は頭打ちになります. このようにFe/Mg比はマグマからの苦鉄質鉱物の結晶分化作用の程度を示す重要な数値ですが,岩石の化学分析値は,主要元素については酸化物の形で表すのが通例なので,分析表から簡単に計算できるFeO/MgO重量比を(結晶)分化(作用)の指標としてよく用います.ただし,分析表にはFeOとFe2O3の両方,あるいはFe2O3だけが載っている場合があり,その場合はFeO+0.9xFe2O3の値をFeO*として,FeO*/MgOの値を使います.FeO*/MgO重量比×0.5611がFe/Mg原子比(f),そして1/(f+1)がMg#(=Mg/(Fe+Mg))になります. Na2O/CaOを分化の指標として用いることは少ないですが,これも上述と同様に,斜長石固溶体とマグマの化学組成の関係に基づいています.つまり,マグマから結晶する斜長石は,必ずマグマよりもNa/Ca比が小さく,残りのマグマはNa/Ca比が増加していくわけです.また,単斜輝石(普通輝石)のNa/Caはゼロに近いので,マグマから単斜輝石が結晶する場合も,マグマのNa/Caはどんどん増加します.ただし,NaとCaをほとんど含まないかんらん石が結晶しても,マグマのNa/Ca比は変化しませんから,玄武岩マグマの初期の結晶分化作用を示すには,この比は適しません. 最後に,(K2O+Na2O+CaO)/Al2O3を分子比で表す理由も,長石(斜長石とアルカリ長石)に関係しています.長石は地球の地殻をつくる普通の岩石(大部分は火成岩)中に最も多量に含まれる鉱物であり,長石固溶体はどんな組成のものでもこの比が1なので,通常の岩石はこの比が1に近いものが多いわけです.従って,この比が1よりかなり小さい「パーアルミナス」な火成岩や,この比が1より相当大きい「パーアルカリック」な火成岩は,通常の火成岩とはマグマの起源物質や成因が異なると予想できるわけで,岩石学では重要な数字です.ところが,この比を酸化物の重量比で計算すると,「どんな長石でもこの比が1」にならず,意味のない数字になってしまいます.そして,Na(曹)長石やK(カリ)長石ではNa/AlやK/Alの原子比は確かに1ですが,Ca(灰)長石ではCa/Al原子比が本来0.5なので,「どんな長石でもこの比を1」に揃えるには,CaをNaやKやAlに対して2倍の数にしてやる必要があります.そういうわけで,このように「変な分子比」を用いるわけです. (08/25/05) 石渡 明(金沢大学・自然科学研究科) |