火山についてのQ&A |
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Question #5347 | |
Q |
富士、箱根山の形成史に興味があるのですが、これは現在のプレート理論で合理的に説明できているのでしょうか?つまり、両山の形成は伊豆半島の衝突と無関係ではないと思うのですが、伊豆半島の衝突を時間的に追跡しながら、箱根、富士の形成史を、その爆発の規模に至るまで、順を追ってプレート理論で逐一説明している本を見たことがありません。私が知らないだけかもしれませんが、大変興味があるので教えて頂けないでしょうか?
(11/30/03)
埼玉県民:社会人:45 |
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A |
プレート理論そのものはスケールの大きな現象に適用されるもので,富士山や箱根 火山の形成史といった局所的現象に直接結びつくものではありません.しかしなが ら,個別的な火山の形成史が,その場所の局所的なテクトニクス場を反映している可 能性は高いものと思われます.その意味で,等しく伊豆半島の衝突テクトニクス場に おかれてはいるものの,富士山と箱根では局所的テクトニクス場には大きな違いがみ られ,両者の形成史がそれを色濃く反映していることは十分に考えられます.以下に 富士山と箱根のテクトニクス場と形成史・活動様式の違いについての個人的見解を述 べてみることにします.これは確立された見方ではなく,ひとつの仮説だと思って聞 いてください. 富士山の直下では,西側の駿河トラフから西方に沈み込んでいるフィリピン海プレ ート(東海スラブとよばれています)と東側の相模トラフから東方に沈み込んでいる フィリピン海プレート(関東スラブとよばれています)が東西に引き裂かれる形で開 いているものと考えられます(ただし,裂けていないとする考えもありますが).富 士山直下に沈み込んでいるフィリピン海プレートの上面の深さは,地震の震源の分布 からおよそ15km程度と考えられています.そうすると,富士山の直下では深さ15km以 深の下部地殻に相当する部分がフィリピン海プレートであり,しかも東西に拡大して いることになります.例えてみれば,プレートの生産される中央海嶺の小規模なもの みたいなものです.そのために,マントルで生成された玄武岩マグマが容易に下部地 殻まで上昇し,そこで大量に蓄えられた後噴火することが考えられます.富士山は巨 大な火山であり,ほとんど玄武岩マグマばかりを,しかもきわめて大量に噴出してい る日本列島では特異な火山といえますが,その性質はこうした局所的テクトニクス場 を仮定すれば容易に説明できると思われます. 箱根火山も特異な火山です.現在ではその中央部を丹那ー平山断層という左横ずれ 活断層が縦断しています.小山真人氏は,現在の伊豆半島東北部には,伊豆東部火山 群(東伊豆単成火山群)を拡大境界として,西側を丹那ー平山断層(トランスフォー ム断層),東側を西相模湾断裂(トランスフォーム断層)で境され,足柄平野の東部 の国府津ー松田断層を沈み込み境界とする,「真鶴マイクロプレート」なるものが存 在することを主張しています.現在の箱根火山(中央火口丘)は,ちょうどこの丹那 ー平山断層のプルアパート部に位置するものと考えられます.プルアパート部という のは2本の横ずれ断層のつなぎ目にできる拡大空間です.この地下の拡大空間を満た す形で火山直下のマグマ溜りが形成されているものと思われます.こうしたテクトニ クス場に箱根火山がおかれていたのは約15万年前以降で,新期外輪山形成期以降と推 定されます.それ以前は,25万年前以降箱根火山は独立単成火山群が発達しており, 現在の東伊豆単成火山群と類似した活動を行っていたものと思われます.この時は, 箱根火山自体が真鶴マイクロプレートの拡大境界であった可能性が高いと考えられま す.25万年前以前には,真鶴マイクロプレートはまだ存在せず,複数の成層火山から なる箱根火山群が存在していました.このように,箱根火山の形成史は,この地域の おかれている特殊なテクトニクス場の変化を反映して,きわめて複雑なものとなって いると思われます. 関心があれば,以下の論文を参考にしてください. ・小山真人(1995): 西相模湾断裂の再検討と相模湾北西部の地震テクトニクス.地学 雑誌,104, 45-68. ・高橋正樹・長井雅史・内藤昌平・中村直子(1999): 箱根火山の形成史と広域テクトニ クス場.月刊地球, 21, 437-445. ・高橋正樹(2000): 富士火山のマグマ供給システムとテクトニクス場ーミニ拡大海嶺モ デルー.月刊地球,22, 516-523. (12/02/03) 高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科)
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