火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #370
Q はじめて質問します。よろしくお願いします。
火山噴出物についてなのですが、火山からどれくらい離れた位置では、どれくらいの大きさの噴出物が、どれくらいの速度で被弾する。といった想定データというのは何かありますか。(もちろんケースバイケースなのでしょうが、、、、、、)
私は建築設計をしており、浅間山の南東約10キロの位置(中軽井沢付近)に病院の計画をしております。病院という建物の性格上、ある程度の噴火時にも機能を確保しなければならないため、ガラス窓等に被弾対策を施さなければならないと考えています。
とはいうものの、どれくらいのものが飛んでくるのか想定しないと対策もできないので、何かヒントがあればお知らせ下さい。
「ここに聞きなさい」とか「これを読みなさい」といったお答えでもかまいません。
よろしくお願いします。

(01/04/00)

漆間 一浩:建築設計:31

A
 実際のデータに基づいて主に噴石の大きさや種類についてお答えします.1900〜60 年頃の浅間山は頻繁に爆発を繰り返しましたが,1935年4月20日の爆発の調査では, 火口から3km以内で50cm-1m以上の岩塊(見かけの密度が最大2500kg/m3程度の緻密な 安山岩)が多数発見されました.これらの17個について落下地点,落下角,射出角な どに基づいた落下速度が133-198m/s (空気抵抗を考慮した場合) と見積もられていま す.しかし火山灰が降下した東南東側では,火口から15-20kmの距離にも10cm程度の 岩塊が発見されました.径が小さい噴石は空気抵抗や風の影響を受けるので挙動の詳 細を決めるには難しい点が多くあります.1973年の爆発では,火口の東南東方向で 降ってきた石の最大直径が,峯の茶屋 (火口距離4.4km) から塩壷付近(7.5km)の範 囲で20cm,横川3cm (20km),安中1cm (35km)でした.この時は,軽井沢町で噴石の落 下によりフロントガラスが割れた車が5台あった他,屋根・壁の破損,電話線・電灯 線の断線が起きました.噴石の温度が高い場合には,山火事や家屋の火災(1920年代 には東北東6kmの分去茶屋が焼失)なども起きます(以上,水上, 1940; 村井, 1974 等による).
 一方,天明3年クラスの噴火の場合はさらに大きな被害が予想されますが,1900年 代の活動とは事情が少し異なります.それは過去の大噴火の地層を調べると発泡のよ い軽石(見かけの密度が500-1200kg/m3程度)の層が出てくるので,次の噴火でも軽 石が降ってくる可能性が高いためです.現在,塩壷温泉付近(南東7.5km)では軽石 の最大直径が約6cmの天明3年の軽石層 (厚さ12cm) が認められます.天明の時は噴煙 が上空の風で東南東方向へ強く流されたので塩壷付近より北方で大量の軽石が降りま したが(現在,万山望付近で厚さ1.7m以上),古文書によると少量の軽石や石が中軽 井沢にも降ったようです.中軽井沢駅の北方800m付近では平安時代や5世紀の軽石層 が見つかるので,天明以前の噴火でも同じように軽石が降ったことがわかります.こ のような軽石層には平均的な軽石より桁外れに大きい軽石が時々入っています.天明 の場合は,南東4kmの大窪沢付近で60cm位,東南東13kmの熊野神社付近でも10cm位の 大きい軽石が見つかります.噴火当時の軽井沢宿での焼石による焼失家屋は約50軒と みられています.軽石は衝突の衝撃でそれ自体が割れやすいこともあり,衝突による 破壊力は大きくないと思われますが,大きい軽石は火災の原因になる可能性がありま す. (1/6/00)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


 火口から10 km も離れている中軽井沢では,落下角はほとんど垂直に近いと推定さ れます(風が強ければその分だけ斜めに落下しますが).したがって窓ガラスは余り 問題ではなく,屋根の強度が問題になります.通常の強度で充分であるとは思います が.屋根の強度の問題は,降下火砕物物の量に直接関係し,有珠火山1977 年噴火の 例では,わずか40cm 軽石が堆積しただけで,ラーメン構造の陸屋根が変形しまし た.しかし屋根が破壊する前に人々は避難すると思います.
 一方,衝撃波(空振)による窓ガラスの破壊がかなりの被害を与える可能性があり ます(国土庁,1992参照).中軽井沢ではかなりの被害実績がありますが,私の個人 的データ(未発表)によると,破損は複雑な要素によって決定されるようです.コン クリートに直接固定されたガラスが最も破損しやすいようです.鬼押し出し園駐車場 における被害実績が参考になります.
 天明クラスでも空振が重要だと思います.建物が振動して,重しの石が屋根から落 ちるという古文書の記述が多く,これは空振によるものと思われます.
  国土庁;火山噴火災害危険区域予測図作成指針,1992 (1/6/00)

荒牧重雄(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp