火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #223
Q 現在、水中火山岩について調べていますが、解らないことがたくさんです。 ピローローブなどに見られる周辺のガラス質は何故出来るのですか。そのガラス質の部分の性質に特徴はあるのですか。 また、枕状溶岩とニセ枕状溶岩はいったい何の違いからわかれるのですか。特定の条件などがあるのですか。 最後に、陸上で出来たものと水中で出来たものの違いを見分ける方法には、どんなものがありますか。 ぜひ教えて下さい。読むと解る文献などがありましたらそれも教えて下さい。
(6/5/99)

熱帯魚:学生:21

A
 熱帯魚さんのご質問は溶岩の産状を観察している多くの研究者を悩ましている問題 でもあります.熱帯魚さんはこうした地質学的課題を専門的に勉強しておられるよう ですので,いつものこのコーナーよりも多少専門的な回答と参考文献についてお答え します.
 最初に,陸上・水中いずれでできたかを問わず,溶岩をその内部構造から以下のよ うに2大別することができます.一つは,一枚の溶岩流がさらに小さな溶岩のフロー ユニット(多くは直径数10cm〜数m程度)に分けられるものであり,それぞれの フローユニットは冷却されたため急速に固結してできた殻をもっていて,その形態か らローブ(lobe:耳たぶ)またはトウ(toe:つま先)などと呼ばれているといった 溶岩です.もう一つはそのようなフローユニットに分割されない一続きの溶岩です. Walker(1971)は,前者をcompound lava,後者をsimple lavaと呼びました(ここでは,それぞれ,集成溶岩,単純溶岩と呼んでおきましょう ).
 ご質問の枕状溶岩(pillow lava)は水中でできた集成溶岩の一種です.ローブの ひとつひとつはピローローブなどと呼ばれます.溶岩が水中を比較的ゆっくりと流れ ると,多くは枕くらいの大きさのローブがムニュと出てきては表面が固まり,さらに そのどこかが破れて次のローブができるといったことを繰り返して集成溶岩全体は前 進・形成されます.ですからピローローブの外殻には,マグマが周囲にある無尽蔵の 海水によって冷やされて急冷してできたガラス部分が,少なくとも玄武岩では必ずで きます.お尋ねのそのガラスの特徴については,Moore(1966)の論文の記載をごらん ください.私の経験も加味して解説しますと,ピローローブの外縁のガラス層は透明 な薄茶色のガラス(5〜20mm厚)からなっていて,内側へいくと,微斑晶を核と して苦鉄質鉱物や鉄酸化物などの骸晶状微結晶が成長し,さらに内側では,それが全 面に広がってきます.ただし,ガラスはパラゴナイトという変質物に置き換わってい ることや,脱ガラス化していることも往々にしてあります.
 次にニセ枕状溶岩ですが,これは枕状溶岩と違って,必ずしも集成溶岩とは限りま せん.これは,一見枕状溶岩のローブに似た岩塊の集合体のようであって,各岩塊の 内部には岩塊表面に垂直な冷却節理が発達しているため枕状溶岩と間違えそうではあ りますが,実は水中にできた単純溶岩の内部が冷却のために収縮して局面や平面の開 口割れ目ができ,それにそって水が進入したためにできたものです.最初Watanabe and Katsui(1976)によって阿蘇の水中デイサイト溶岩で記載・定義付けされました が,玄武岩溶岩にもできます.また,Walker(1992)は玄武岩質枕状溶岩のひとつの ピローローブの中にできた収縮割れ目に沿って水が侵入し冷却節理を生じたものまで もニセ枕状溶岩と呼んでいます.ニセ枕状溶岩を枕状溶岩と識別するには,枕状溶岩 のローブが溶岩の流動と同時期に形成されるのに対して,ニセ枕状溶岩は溶岩が定置 したのちにその流動の痕跡(気泡の配列など)と斜交する割れ目によりできることが 決め手(Watanabe and Katsui,1976)とされています.またニセ枕状溶岩の岩塊 の外形からも判断されます.
 最後に陸上と水中の溶岩の見分け方ですが,これは難しい問題です.とりわけ,枕 状溶岩と陸上の集成パホイホイ溶岩とは,水か空気かのいずれかに冷却されてローブ をなしている点では共通しているわけですから,多くの共通点をもっていて,相違点 を明らかにする研究としては,これまで以下の論文があります.とりわけローブの表 面形態(Yamagishi, 1991参照)の相違は重要ですのでその点に注目して文献にあたっ てください.なお,私の今年の地球惑星連合学会での講演要旨 (http://geogate.shinshu-u.ac.jp/Miyake/CRBabst1.html) も参考にしてください.

枕状溶岩と集成パホイホイ溶岩を比較研究した文献 Jones, J.G., 1968, Pillow lava and pahoehoe. J.Geol., 76, 485-488 Truckle, P.H., 1979, Pahoehoe and pillow lavas from the Suguta Trough Turkana, Kenya. Geol.Mag., 116,139-142 Walker, G.P.L., 1992, Morphometric study of pillow-size spectrum among
 pillowlavas.Bull.Volcanol., 54, 459-474 Walker, G.P.L., 1971, Compound and simple lava flows and flood basalts.
 Bull.Volcanol., 35, 579-590 その他の文献 Moore, J.G., 1966, Rate of palagonitization of submarine basalt adjacent to Hawaii.USGeol.Surv.Prof.Pap., 550-D, 163-171. Watanabe, K. and Katsui, Y., 1976, Pseudo-pillow lavas in the Aso caldera, Kyushu, Japan. J.Japan.Assoc.Min.Petrol.Econ.Geol., 71, 44-49. Yamagishi, H., 1991, morphological features of Miocene submarine coherent lavas from the "GreenTuff" basins: examples from basaltic and andesitic rocks from the Shimokita peninsula, northern Japan. Bull.Volcanol., 53, 173-181. (6/16/99)

三宅康幸(信州大学理学部地質科学教室)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp