火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #112
Q
 大学の教養の講義で、マグマの分布、火山、地震などに関するレポート課題というものがあり、そのために、沈み込み帯におけるマグマの成因を本で調べていたところ、「マグマの発生には沈み込むプレート、及び、マントルウェッジ最下部にプレートに沿って形成される含水層内での脱水分解反応によるH2Oの供給が、本質的な役割を果たす」とありました。講義では、島弧の火山列は列を成すことがよくあり、マグマの分布も一様ではない、と聴いた気がしますが、前述の文からでは、マントルウェッジ最下部の部分融解帯が不連続であるか否かということはわかりません。
 そこで質問なのですが、 1.沈み込み帯下においてのマグマ発生の際のマントルウェッジ最下部の部分融解帯は連続したものなのでしょうか? 2.部分融解帯が不連続だとしたら、どうしてそのようになるのでしょうか? 3.また、沈み込み帯下において、マントルウェッジではなく、スラブ自体が融解してマグマが発生することはないのでしょうか?
 私は工学部1回生で地学に関して付け焼き刃の知識しかないので、間抜けな質問をしてしまっているかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
(8/14/98)

A.O:大学生:19

A
 まず、3についてお答えします。沈み込み帯の存在する火山の成因としては (あ)スラブ表層の溶融、 (い)スラブ由来の水による融点低下でマントルウエッジのかんらん岩が溶融、 という2つのモデルが代表的なものです。 ただし、沈み込むスラブの温度が計算や観測によって推定され、実験的に決め られたスラブ物質の融点と比較するデータが集まるにつれて、スラブ自身の溶 融が起き得るのは非常に若いスラブ(あまり冷たくないスラブ)が沈み込んで いる場所(例えば伊豆・マリアナ弧など)などに限られており、こうした場所 以外ではスラブ自身の溶融が起きている可能性は低いと考えられるようになっ てきました。


 さて、次に(1)と(2)についてマントルウエッジの融解という観点から考えて みましょう。まず答えから言ってしまうと、地上において観察される火山の分 布が一様ではなく沈み込みと平行な方向にも垂直な方向にもある種の集まりを 持っているのと同様に、部分融解帯も決して一様なものではありません。では 何故、一様にはならないのでしょうか。
 今、私たちが目にするような地表の火山分布ができるためには、地下深部 で、(a)H2Oの生成、(b)マグマ源へのH2Oの移動と部分溶融帯の形成、という2 つのステップが必要です。こうしたそれぞれのステップに、一様でない部分溶 融帯を作りうるプロセスがあるのです。 (a)のH2Oの生成の要因には、岩石の空隙中に閉じこめられていた水の絞り出し と含水鉱物の分解反応とがあります。前者は連続的に起きますが、多くの水は 沈み込みが始まって間もなく絞り出されてしまい、火山の形成にはあまり寄与 していないと考えられています。後者は含水鉱物の分解反応に特有な温度圧力 下でのみ起こりますから、不連続なH2Oの生成となるわけです。(b)において は、H2Oの移動中に一様な分布からH2Oの集中がおきる可能性と部分溶融帯自身 が不均一な分布に成長していく可能性とが存在します。雨の日の軒先からした たる雨のしずくや、お風呂場で天井から落ちてくる水滴を思い出してくださ い。初めはほぼ一様に分布していたとしても、小さな滴のあるものが少しずつ 周囲の小さな水滴を吸収して大きく成長していき、ついには落下する様子が観 察できるはずです。これと同じように、時間空間スケールと上下の向きは異な りますが、大きく成長したものほどより大きな成長・移動速度を持つようにな るといった不均一性が増大していく現象が、マントルウェッジでも起きている と考えられています。
 さて、以上のような幾つかのプロセス、それらのどのプロセスによってどの ような方向の非一様性が実現するか、ぜひ考えてみてください。
 さらに地表で観察される火山の分布について言うならば、部分融解帯で作ら れたマグマが地表までの上昇する過程で地殻の構造や応力などの影響をうける ということも、一様でない火山分布の原因に付け加えなくてはなりません。 (8/19/98)

安田 敦(東京大学・地震研究所)


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp